第十四夜

駅からの帰路、小さな交差点を左へ曲がり細い道に入る。街灯が少ないのに応じた分だけ、自転車の灯が強まったように思われる。

小路との三叉路を一つ、交差点を一つ過ぎ、右手に駐車場が見えたところで前籠の鞄からキーケースを取り出してコートのポケットへ仕舞い、アパートの階段下へ自転車を停め鍵を抜き、前籠から鞄を取り上げて左肘の内側に掛ける。

共用の郵便受けの目隠しを跳ね上げるが、中は空である。三本の蛍光灯が取り付けられた共用廊下は駐車場とは緑色の金網一枚で隣り合っており、風も視線も素通しで居心地が悪い。

と、奥から二番目の自室の前だけ、不規則に明暗を繰り返している。端の橙色に変色した蛍光灯が明滅を繰り返しながら、どうにかこうにか照らしているのだった。右のポケットから鍵を取り出し、渋い鍵穴に捩じ込んで回す。

安アパートだから仕方がない。勤め先が安く借り上げているため安アパートの中でも相場より二回りは安く、通勤時間も短くて済む。どうせ女の一人暮らし、水回りさえ清潔ならば値段に勝る魅力は無いのである。
 渋い鍵穴から鍵を上下に揺らして鍵を引き抜き戸を開け、左足を玄関の土間へ踏み込む。と、玄関の上がりかまちに人の姿が立っていて背筋がびくりと伸びる。

何のことはない、速販企画の等身大写真看板である。自分の前にこの部屋を使っていた女性社員が女の一人暮らしは物騒だからと持ち込んだものだと、引っ越し前に社員から説明された。曰く、出かける前に台所に立てておけば、共用廊下からは誰かがそこに立って見えるのだと。
 本当にそれで防犯が期待できるものだろうか。気休めのおまじないのようなものとは思いながらも、昔からぬいぐるみや人形の類を捨てられない性分も手伝って、出掛けには台所の前へ出し、帰宅をしたら施錠した扉の前へ片付けるのが習慣になっていた。

再び背筋に悪寒が走り、左脚を引き抜くようにしながら戸を閉め、振り返らずに駆け出した。

そんな夢を見た。