第六百九夜   冷たく乾いた風によく晴れた日差しの暖かさを感じながら洗濯物を干していると、居間のテーブルの上でスマート・フォンが着信音を鳴らし始めた。 物干し竿へ最後のシャツを掛け終えて急いで部屋に戻ると職場の […]
第六百八夜   偶には外で食事でもしようと約束し、仕事帰りの彼女を待つ間、珈琲でも飲んで時間を潰すことにした。食事といってもこちらは休日で店も堅苦しい高級店ではないから、ジム帰りの普段着姿だ。 駅構内のチェーン […]
第六百七夜   道路脇の崖沿いに作られた小さな休憩所兼展望台の木製のベンチへ倒れ込み、手足を大の字に伸ばして仰向けになった。太腿が限界だ。友人が苦笑いをしながらストレッチをするよう促し、トイレの脇に置かれた飲み […]
第六百六夜   家庭教師のバイト先に着くと、教え子がマスク越しにもわかる笑顔で出迎えてスリッパを用意してくれた。ここ数週間ほど妙に表情が暗くなっていて心配をしていたのだが、何か悩みでも解決したのだろうか。 スリ […]
第六百三夜   定期試験の初日、午前で三教科の試験を終えて、秋雨の降る中を帰宅していた。急に秋めいて肌寒い住宅街は昼下がりということもあってか人気が無く、細い道を通る車も無い。ただ傘を打つ雨滴のノイズを聞きなが […]
第六百一夜   都内や近郊の終電が無くなって程なく、稼働しているタクシーの一台から連絡が入った二時間半ほど前に時間指定のお客様を担当した車だ。 GPSを見れば隣県のど真ん中で、随分遠出をしたものだ。先程のお客様 […]
第六百夜   ちょっとしたトラブルに巻き込まれ、いつもより晩くに帰宅すると、マンションの玄関の様子が変わっていた。植え込みにはカボチャのランタンを模した電灯が置かれ、入り口周辺のガラス壁には画用紙に描かれた可愛 […]
第五百九十八夜   彼女の買い物に荷物持ちとして同行した帰りはまだ夕食には早過ぎる頃合いで、喫茶店で甘い物でもと誘われてモダンな外装の喫茶店に二人でふらりと立ち寄った。 季節の甘味ということでマロン・グラッセの […]
第五百九十五夜   古美術品を買い取ってほしいとの依頼を受けて、高速道路で県を三つか四つ跨いで山中の別荘地へとやってきた。 元は私の店のある地方都市にお住まいの裕福なご夫妻で、昔から懇意にさせていただいていた。 […]
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