第六百三十五夜

 

乾いた北風に吹かれながら今日も通学のため自転車を飛ばして住宅街の外れにある自宅から最寄りの駅へ向かう途中、割と新しい小さなマンションとその向かいの駐車場に挟まれた路上に数台の警察車輌が停まっているのが見えた。

何か事件でも起きたのだろうか。

そんな考えがさしたる驚きも伴わず頭に浮かぶのは、住宅街と工業地帯の境に近いこの辺りは夜になると人通りが殆ど無く、高校生男子の自分でさえ自転車でなければ出歩くことを禁じられているくらいだからだ。

とは言え実際に事件現場らしきものを目にするのは初めてで、狭い道に駐められた車輌をすり抜けるのに必要な以上に自転車の速度を落として、人の囲む中の様子を伺ってみる。

そこには一台のタクシが駐められ、運転席側のドアと後部のトランクとがだらしなく開かれて、鑑識らしき制服姿がその中でも外でも何かの調べ物をしている様子がみえたのだが、そのタクシに、見覚えがあった。

それが顔に出たのを目敏く見付けたのか、警官がこちらに手を振って静止を求める。遅刻をする訳にはいかないと訴えるがそれは無視され、このタクシを知っているかと尋ねられ、仕方なく応じる。

昨晩もそうだったが、平日夜の浅い時間にはずっとここに車を駐めて、中でテレビやらを見ながら晩飯を食っているタクシがある。朝に見るのは初めてだが、きっと同じ車だろう。何故覚えているかって、それは殆ど毎日のように見るのだから当然のこと、その上行儀が悪いのだから尚更だ。車中で食べる弁当のゴミや、これは車外で吸うようだが、煙草の吸殻なんかを道端にそのまま捨てていくのだ。今は通学の時間が合わなくなったが、中学生の頃には駐車場の向かいのマンションの管理人さんが朝方片付けるのをよく見掛けたものだ。

それを聞いた警官は礼を言い、また話を聞かせてもらうかもしれないからと生徒手帳を出させてその名前を控えると、
「気を付けて行ってらっしゃい」
と如何にも作り物の笑顔がこちらへ向けられる。

何があったんですかと尋ねると、
「さあねぇ」
と彼は首を傾げた後、
「運転手がね、死んでたんだよ。運転席のハンドルの下、座席に座ってれば膝から下がくるところね、そこに頭から背広をかぶってうずくまった姿勢でね」
とこめかみを掻いた。

そんな夢を見た。