第六百三十四夜

 

正月ボケがまだ抜けきらず、たまの休日くらいは昼前まで寝て過ごしたいと暖かな布団の中でささやかな幸福を味わっていると、ナントカさんから電話だと言って子機を持った母が部屋を訪ねてきた。

別に珍しくもない苗字だが、そんな友人が居ただろうかと寝惚けた頭で考えるが、心当たりはない。いや、そもそも仲が良ければ家の電話になど掛けずにスマート・フォンか、メッセージ・アプリの方で連絡を取ろうとするだろう。どちらのナントカさんかと母に尋ねると、小・中学校で同じクラスだったと言っていたそうで、言われてみれば居たかもしれない……が、居なかったかもしれない。せいぜい十年かそこら前の同級生でそれだけ印象が薄いのだから、到底仲が良かったとは思えない。

それでも母が促すので仕方なく電話に出ると相手は若い女性らしく、先方も警戒心に満ちた余所行きの声色でこちらの名前を確認する。
「はい」
と、呼ばれた名前と同姓同名であることを認めると、先方は、
「あの、もう年賀状を送らないで頂けませんか?」
と言う。何のことだかわからない。そもそも私が年賀状を出すのはごく少数のお世話になった先生や習い事の師匠と祖父母くらいで、友人にはメッセージ・アプリでの「あけおめ」画像で済ませていて、スマート・フォンを与えられていなかった小学生時代以来同年代に年賀状を送ってさえいない。

しかし彼女の言うには、中学の頃から一貫して私が年賀状を送り続けているそうだ。特に仲が良いでもないのに気味が悪いからと一度も返事をして来なかったが、隣県の大学に進学して一人暮らしを始めた今年になって、実家ではなく下宿先のアパートへ年賀状が届いた。どう調べたものかは知らないが、毎年手書きで添えられる一言も含めて気持ちが悪いのでもう止めてくれと、半ば泣き叫ぶような声で言う。
そうは言われても書いていないものは止めようがない。きっぱりそう言うと電話の向こうで何やらモゴモゴと音がして、電話の声が男性のものに代わる。

彼女の交際相手だというその声曰く、私に心当たりが無いのなら私の名前を騙った誰かが彼女に嫌がらせをしているのだろうが、念の為に私が犯人でない確証が欲しい。手元の年賀状の筆跡と見比べたいので指定のメールアドレスへノートか何かの手書きの文字の画像を送ってはくれないか。実家住まいで、卒業アルバムなりで住所も電話番号も知られているのだからリスクはないだろう、と。

確かに、適当なメールアドレスを使い捨てればこちらにはノートの写真一枚の情報流出いがいのリスクはない。それで疑いを晴らせるならと新たに作ったアドレスでメールを送ってやると、筆跡は素人目にもまるきり別人だったとのことで、
「疑って申し訳なかったが、貴方の名を騙る誰かがいることは確かだからくれぐれも気を付けて」
という趣旨の返事が来て、それを確認して直ぐにメールアドレスを削除して、二人のことは忘れることにした。

そんな夢を見た。