第五百九十四夜   二人前の酒と肴とを入れた手提げ袋を手に部屋の扉を開けた家主に招かれるまま部屋へ上がり、下駄箱の上に置かれた消毒液を手に擦り込んだ。 部屋の主は大学の友人で、ここ数日顔色が優れないのを心配して […]
第五百九十二夜   新学期を迎えて二日目の朝、目が覚めると寝汗で寝間着代わりのシャツが肌にべったりと張り付いていた。さっさと着替えて顔を洗いに共用の洗面所へ向かおうと部屋を出ると、何だか辺りが騒がしい。階下から […]
第五百九十夜   自然に囲まれた山の中の祖父母の家での生活も、夏休みが終わりに近づく頃には流石に少々飽きが来ていた。 蝉の声を聞きながら、居間の炬燵卓で本を読む。盆休みに顔を出した父を祖父の車で街の駅まで送った […]
第五百八十九夜   今年は久し振りに行動制限の無いお盆だからと父が煩く、世の帰省ラッシュが済んでから多少安く、また人も少なくなったであろう夜行バスで実家に帰った。時期に自由が利くのが学生の楽なところで、金銭に自 […]
第五百八十八夜   店の前に張り出した日除けの簾の陰へ置かれたプラスチック製のベンチに片膝を上げて祖父と向かい合い、将棋を指していた。毎年夏休みになると、姉とともに母の実家である海辺の雑貨屋に預けられ、こうして […]
第五百夜八十七   いつもの時間に家を出ていつものように息子の手を引いて歩いていると、いつもの大型犬を連れたご婦人と出会って会釈をした。いつものように息子が垂れた耳の間を撫でる間、犬はいつものように舌を出しなが […]
第五百八十六夜   上司に連れられて行った取引先との打ち合わせが実に中途半端な時刻に終わり、社に戻らずに直帰することになった。 下り線の途中で上司と別れて電車を乗り換え、最寄り駅に着いて電車を降りると熱風が吹き […]
第五百八十三夜   梅雨の戻りというのだろうか、暫く続いた雨が漸く止んで一転真夏の日差しとなった日の晩、そろそろ明日の仕事に差し支えるからと日課のジョギングに出た。外に出ると、地面が溜め込んだ水分が昼に温められ […]
第五百八十二夜   子供達が夏休みに入って最初の金曜深夜、妻の実家へ高速道路を走っていた。夜の高速道路はその退屈な眺めと程よい走行音の子守唄とで、どうしても眠気が襲ってくる。 幾度目かの生欠伸を噛み締めて涙を拭 […]
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