第五百六十五夜   よく晴れて見晴らしの良い田舎道を自転車で走っていて、ふとその光景に見覚えがあるのに気が付いた。 といって、ほんの一ヶ月半ほど前にも同じ道を同じように走ったのだから風景に見覚えがあって当然だ。 […]
第五百六十四夜   トレイに載せたカップ二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい御札!作ってきた!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客も少 […]
第五百六十二夜   じゃあまた明日と皆と別れて裏口を出ると、花の金曜日の夜の街はネオン・サインもほとんど無く、往年の活気を思えば随分と寂しいものだった。 酔いの回った頭に疫病への恨み言を浮かべながら徒歩一分、ぽ […]
第五百六十一夜   帰宅途中に引っかかった信号が青に変わって歩き出そうとして出鼻を挫かれた。顔面、左目の少し下に何かが当たったのだ。 春になって虫でも飛び回っているのかと思うと同時に植え込み近くで何か金属音が鳴 […]
第五百六十夜   二年に上がって初めて教室に入って以来、不思議に思っていることがあった。他の学校、他の地域ではどうかわからないが、私の卒業した小学校では各教室にオルガンが置かれていた。中学に上がるとそれが無くな […]
第五百五十九夜   昼食のスパゲッティとレトルトのソースとを二つの鍋で茹でながら、傍らの冷蔵庫の側面に貼り付けたタブレットで映画を見ていると、居間でスマートフォンが鳴った。メッセージ・アプリの通話要求の効果音だ […]
第五百五十八夜   夕食後、山の夜風に当たりながら酒を飲んでいて、標高が多少高いせいもあるのだろう、五月晴れの陽射しに慣れた身体が少々冷えてきた。部屋に置かれた案内書きに拠れば大浴場は夜十時まで開いているとのこ […]
第五百五十七夜   テレワークを終えて五時半を回った頃、娘と並んで自転車に乗って近所の量販店へ買い物に出掛けた。いつの間にか随分と陽が長くなったもので、辺りはまだ夕焼けにもならずに明るいままだ。 駅前へ向かうに […]
第五百五十五夜   仕事帰り、電車を降りて歩きだすと、今日は妙に身体が重かった。普段なら食費の節約になる程度には簡単な自炊もするのだが、こういう日は多少贅沢でもして鋭気を養いたい。まだ時間が早いので一旦帰宅して […]
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