第六百十四夜

 

友人がメッセージ・アプリで、
――ちょっとこれを見て
という言葉とともに猫の画像を送ってきた。長毛種の猫が撫でろとでも言うように仰向けになって腹を見せている。

提出課題をやっつけている最中だったので適当に可愛いとだけ送り返してスマート・フォンを机に戻すと、すぐに次のメッセージが送られてくる。
――それだけ?
忙しい中に面倒な奴だ。
――猫なんて飼ってたっけ?
と返してやると、何処だかの猫カフェで撮影したものだという。
――それより、普通に猫に見える?
と、訳のわからないことを言う。何のことかと尋ね返すと、サムネイル、つまりメッセージに並んでいる画像のことだが、それを一度選択して拡大表示してみて欲しいと言う。

言われた通りに猫の腹の辺りをタップすると、一瞬の読み込み時間を挟んで大きな画像が表示され、驚いて背筋が跳ねる。画面一杯に表示されたのは、笑顔の赤ん坊の写真だった。赤ん坊を大写しにしているため定かではないが、クリーム色のセーターを着た母親が胸の前に抱えた姿のように見える。
――赤ん坊の写真になった
とありのままを述べると、
――やっぱりそうか
と返ってくる。事情を尋ねると、幾つかのメッセージに分けて長々と説明してくれた。

彼は別の猫好きの友人に、これを含め数枚の猫の写真を送ったという。すると妙なものが紛れていると言われ、検証してみるとこの一枚だけ、サムネイルでは猫の画像なのに実際に表示させると人間の赤ん坊になるのだとわかった。
――悪戯で作ろうと思えば作れるらしいんだけど、そんなやり方は知らないし、そもそも俺のスマホにこんな赤ん坊の画像なんて無いしで、気味が悪くて
という彼に、同じく機械音痴の身としては、
――きっとメッセージ・アプリ側のバグか何かなんでしょ
と返すしかなかった。

そんな夢を見た。

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