第六百三十七夜

 

そろそろ片付けて帰ろうかと思っていたところ、今日は半休でいいと伝えてあった部下が戻ってきた。昼過ぎに仕事中に突然大家から電話が掛かってきて、借りている部屋に泥棒が入ったとかで事情聴取やらにいかねばならぬとのことだった。

普段の仕事上がり余程疲れた顔をしている彼に珈琲を淹れてやりながら、災難だったねと労うと、自然と事情の報告が始まる。

慌てた様子の大家から電話で聞いた話では、部屋に何者かが侵入し、警察が来て捕まったという話だった。その時点では大家にも詳しい事情は分かっていなかったらしい。ただ、彼の部屋で大きな物音がして、上の階の住人が通報し、駆けつけた警官に侵入者が逮捕されたということだった。

ちなみにこの部屋というのは、彼の現住所ではないという。油絵を趣味にしている彼が不動産屋に相談をしたところ、格安で借りられる便所付きの物件として紹介され、週末に時間が取れれば絵を描きに通うような使い方をしているそうだ。

なかなか贅沢な趣味だとも思ったが、家賃を聞くとちょっとした駐車場を借りるよりも安い。それで便所や水道が使えるのだから、アトリエ用途を許容しているガレージの類を借りるより余程便利と、床から壁まで一面を養生シートで覆って汚さぬように気を付けながら、満足して利用していたという。

そこへ空き巣というのも変な話だと思いながら現地へ行き、警官から説明を受けた。犯人は隣の住人で、通報を受けた警官が駆けつけたときには家具らしいものは椅子とイーゼルくらいしかない部屋の中でペインティング・ナイフを振り回しながら奇声を上げていたらしい。

少し落ち着いて話を聞くと、夜勤明けに眠りたいのに毎日毎日生活音がうるさくて鬱憤が溜まっていた。文句を言いに行ったら部屋の鍵が開いていた。
「それで部屋に入ったところまでは覚えているが、それから先は記憶がないって説明しているって言うんですよ。土日以外で昼にあの部屋に居ることなんて、大型連休中でもなければありえないのに……」
と、彼は珈琲から上る湯気を溜息で揺らした。

そんな夢を見た。