第六百三十夜

 

放課後、体操服に着替えて校庭へ出ると、暫く部活を休んでいた友人が爪先を地面に付けてぐるぐると足首を回していた。
「もう良くなったの?」
と後ろから声を掛けると彼女は振り向いて頷き、
「お陰様で。でも凄いね、あのお爺さん」
と言う。年始から暫く休みが続いた彼女に、理由を尋ねると足の関節の調子が悪いというので、ある整骨院を紹介したのだ。どうやらそれが役に立ったらしい。
「でしょう?私もうちのお祖母ちゃんに連れられて、ちっちゃい頃からよくお世話になってるところで、腕は確かだから」
と胸を張ると、しかし彼女は、
「うーん、腕がどうかはわからないんだよね……」
と歯切れが悪い。あのお爺さんのお陰で治ったのではないのかと尋ねると、
「うーん、それはそうなんだけど……」
と彼女は首を捻り、並んで準備体操をしながら事の経緯を話してくれる。

私から整骨院の話を聞いた彼女が両親に相談してそこを訪ねると、彼は不調や痛みの感覚を聞いた後ほんの少し足を触って骨を動かして、
「ああ、これは」
と一人頷き、施術の必要は無いと言う。どういうことかと尋ねる母娘に、近所の神社の名を挙げて、そこへ行ったことがあるかと聞き返す。

境内に綺麗な池があるので有名で、ここらの子供達なら誰でも一度くらいは遊びに行ったことがあるだろう。中学に入る前にはよく行ったものだったが、彼はこちらの返事を待たず、
「あそこの神さんがちょっかいを掛けてるんだ。特別なことは要らないから、一度お参りに行っておいで。初詣は別のところへ行ったんだろう」
と言い、今日のお代は要らないと言って二人を帰した。

自分では治せないから適当なことを言って誤魔化したのではないかとも思ったが、ここ数年その神社にお参りをしていないのは事実で、二人はそのまま早速神社を訪ね、足が治るようお願いをして帰宅した。
「家に帰ったら、なのかな、本当にいつの間にか痛みも違和感も無くなっててびっくり」
と言う彼女は冬晴れによく似合う清々しい笑顔だった。

そんな夢を見た。

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