第六百二十七夜

第六百二十七夜

正月明けの登校初日、退屈な新学期の始業式に続いてホームルームで冬休みの課題を提出し、晴れて下校時間になった。

幼馴染の友人と共にお喋りをしながら校門を出ると、
「そうそう、朝のアレ、何なのか聞いてみたんだけどさ」
と言う。何のことかと首を捻ると、
「ほら、あの背中を叩く奴。気にしてたじゃない」
と言われて合点する。

今朝の登校中のこと、彼女とは家が近所で昔から仲が良く、部活の無い日にはいつも並んで登校するのだが、途中の交差点で合流したクラスメイトの男子がおはようの挨拶とともに彼女の背中を平手で叩いた。学校指定の厚いコートが鈍い音を立て、一瞬彼女がよろめくほどの強さだった。助平心か、未だに小学生めいた嫌がらせなのか知らないが文句を言ってやろうと口を開いた瞬間信号が青に変わって彼は走り去り、途中前を歩いていた友人らしき数人の制服の背中を同じように叩きながら遠ざかって行った。

一体彼は何のつもりでと憤慨したのは友人も同じだったらしく、始業式を待つ間に彼と同じ小学校出身の女子に話を聞いたのだそうだ。それによると彼は小学生の頃から頻繁にそうやって友人達の背中を叩いて回っていて、それは特に男女を問わない、誰かが理由を尋ねたことがあって、彼がそれに答えたことには、
「オレな、何か良くないものが憑いてるのが見えるんだよ。んで、背中を強く叩くとそれが取れるの。変な奴扱いされるから見えることは他人に言うなって母さんに言われてるから、これ内緒な」
ということだったそうだが、そこは小学生のこと、少なくとも同級生には直ぐに知れ渡ったと言う。

女の子にちょっかいを出したくて適当なことを言っているだけなのではないかというと、友人もそうかも知れないと苦笑いを浮かべる。
「もしそうでなければ、私には『悪いもの』とやらは憑いてなかったってことなのかな」
と何となく浮かんだ疑問を口にすると、
「それ、私も気になってさ、ホームルームの前に聞いてみたんだけど……」
「え、本人に？」
「うん」
「うわ、勇気あるなぁ。で、何だって？」
「うーん、それがね、『あいつはオレには無理』だって。何がどう無理なのか訊いたら黙っちゃって、直ぐに先生が来ちゃったから……」
と彼女は申し訳無さそうに耳の後ろを掻いた。

そんな夢を見た。