第六百一夜   都内や近郊の終電が無くなって程なく、稼働しているタクシーの一台から連絡が入った二時間半ほど前に時間指定のお客様を担当した車だ。 GPSを見れば隣県のど真ん中で、随分遠出をしたものだ。先程のお客様 […]
第六百夜   ちょっとしたトラブルに巻き込まれ、いつもより晩くに帰宅すると、マンションの玄関の様子が変わっていた。植え込みにはカボチャのランタンを模した電灯が置かれ、入り口周辺のガラス壁には画用紙に描かれた可愛 […]
第五百九十八夜   彼女の買い物に荷物持ちとして同行した帰りはまだ夕食には早過ぎる頃合いで、喫茶店で甘い物でもと誘われてモダンな外装の喫茶店に二人でふらりと立ち寄った。 季節の甘味ということでマロン・グラッセの […]
第五百九十五夜   古美術品を買い取ってほしいとの依頼を受けて、高速道路で県を三つか四つ跨いで山中の別荘地へとやってきた。 元は私の店のある地方都市にお住まいの裕福なご夫妻で、昔から懇意にさせていただいていた。 […]
第五百九十四夜   二人前の酒と肴とを入れた手提げ袋を手に部屋の扉を開けた家主に招かれるまま部屋へ上がり、下駄箱の上に置かれた消毒液を手に擦り込んだ。 部屋の主は大学の友人で、ここ数日顔色が優れないのを心配して […]
第五百九十三夜   出先で腹具合が悪くなり、たまたま目に付いたコンビニエンス・ストアへと脚を早めた。疫病騒ぎの初期には多くの店で客の便所利用が禁止されていて難儀したのを思い出す。 自動ドアから出てくる客と入れ違 […]
第五百九十二夜   新学期を迎えて二日目の朝、目が覚めると寝汗で寝間着代わりのシャツが肌にべったりと張り付いていた。さっさと着替えて顔を洗いに共用の洗面所へ向かおうと部屋を出ると、何だか辺りが騒がしい。階下から […]
第五百九十一夜   窓外から響く列車の走行音に目が覚めて、いつの間にか眠っていたことに気が付いた。部屋は既に真っ暗で、西向きの窓から商業ビルの看板の灯が入ってこないということはもう深夜なのだろう。 寝間着代わり […]
第五百八十八夜   店の前に張り出した日除けの簾の陰へ置かれたプラスチック製のベンチに片膝を上げて祖父と向かい合い、将棋を指していた。毎年夏休みになると、姉とともに母の実家である海辺の雑貨屋に預けられ、こうして […]
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