第五百九十一夜

 

窓外から響く列車の走行音に目が覚めて、いつの間にか眠っていたことに気が付いた。部屋は既に真っ暗で、西向きの窓から商業ビルの看板の灯が入ってこないということはもう深夜なのだろう。

寝間着代わりのシャツまで寝汗でずぶ濡れで、悪寒の走る体の節々が痛む。今回もひどい有様だ。

ひとまずタオルで汗を拭いてシャツと下着とを着替え、重い体を冷蔵庫へ引き摺る。冷蔵庫には病院からの帰宅途中に買い込んだカップアイス、ゼリー状の栄養補助食品、スポーツ飲料の詰め込まれている。空腹感などまるで無いが、水分と栄養とは意識的に補給するべきだそうだ。適当に手の届いたものを掴んで喉の奥へ流し込む。

そのまま布団へ戻りたいのをぐっと堪え、洗口液を口に含んで軽くブラッシングをする。極度の歯医者嫌い故に、こんなときでも最低限の歯磨きは欠かせないのだ。

頭蓋骨に反響する歯ブラシの音を聞きながら、窓外の轟音がまだ鳴り止まないのに気が付く。ここは駅から徒歩十分ほどの距離にある、高架線沿いのアパートの一室だ。引っ切り無しに窓外を通る列車の走行音が煩い他は、駅からの距離の割に賃料が安く、各種商業施設も充実していて便利なのだ。貨物便の通る路線ではないから最終列車が済んでしまえば早朝までは静かだし、昼の間はほとんど家にいないから、それほど悪い条件でもない。

しかし、既に街の灯が消えているのに、今日はどうしたことだろう。線路の点検等で工事用の車両が深夜に通ることがあるのは知っているが、それにしても余りに長く鳴り止まない。習慣的に歯磨きには約五分掛けるのだが、それが終わってなお一定のリズムでガタンゴトンと鳴り続けている。

部屋は線路より二階分ほど高いため、線路側の窓のカーテンを少しめくれば直ぐ眼下に線路が確認できるのだが、体の怠さと痛みと悪寒、そして何か奇妙な予感がして、敢えて確認はしないことに決める。

布団へ戻り、すっかりぬるくなった枕元の氷嚢を冷蔵庫のものと交換し、
――熱で耳がおかしくなったのだろう
と結論して、汗に湿気の籠もった布団へ仰向けになった。

そんな夢を見た。