第六十八夜 運動不足を解消するのに、少々高い自転車を買った。道具を用意したのはいいのだが、元来が運動不足になるような出不精だ。単に運動のため出掛けるのが億劫なのは言わずもがなである。そこで一念発起して、休日には手頃な観光 […]
第六十七夜 「で、相談って何です?」 頼んだ料理が揃って乾杯し、グラスのビールを一口呑んで若い男が問う。卓の向かいには高級なスーツに身を包んだ四十絡みの紳士が土気色の顔をしてグラスをあおっている。グイグイとグラスを空け、 […]
  第六十六夜 盆に帰省をしないならと誘われて、日の暮れた頃に酒と肴を持ち寄り酒宴を開くことになった。 友人宅へ着くと、 「遅かったじゃないか」 と出迎える部屋の主の顔は既に赤い。家が遠いのだからと返しながら靴を脱ぎ、酒 […]
第六十五夜 合宿初日に興奮で寝付かれぬ後輩たちにせがまれて、消灯時間を過ぎた中、キャンプ用にロウソクの灯の色を真似たLEDランタンをこっそり囲んでトランプ遊びをすることになった。三年が引退して部内では最上級生になったもの […]
第六十四夜 「不思議なことってのは、あるもんなんだなぁ……」 と、乾杯のビールを一口飲んだSEの友人が切り出した。 一ヶ月ほど前に彼の引っ越しを手伝った際に、相場より随分と家賃の安い物件を見つけたのだと喜々として語ってい […]
第六十二夜 沼の上に月が出ている。沼を渡る夜風は夏といっても爽やかで、岸の葦が吹かれてはそよと揺れ、また吹かれてはそよと揺れるその上を、月明りが波になって押し寄せている。 そんな景色を眼下に見ながら、味噌を付けた胡瓜をポ […]
第六十一夜 浜で友人たちと花火を見た帰り、路面電車で家路に就き、最寄りの駅で彼らと別れて一人山道を歩く。 花火の余韻の名残惜しく、木々を抜ける夜風に吹かれながらゆっくりと歩いていると不意に、 どん、どどん と大きな音が腹 […]
第五十九夜 ある山奥の神社へ用があり、朝から汽車を乗り継いで最寄りの駅に付いたときには午後一時を回っていた。バスの来るまでの暇を、待合小屋の日陰で居合わせた地元の老人達と世間話をして過ごす。ようやく着いたバスから家族連れ […]
第五十夜 「お、そろそろだな」。 友人の声に壁掛け時計を見やると、十時半を三秒、四秒と過ぎてゆくところだ。 「本当に?」 と尋ねると、 「後三十秒で分かるさ」 と笑って返す。 最低限の家具だけが無機的に並ぶこの部屋の主曰 […]
最近の投稿
アーカイブ