第百十一夜   雪のちらつくホームの端で、直ぐ後ろから流れてくる煙草の煙に目を半ば閉じながら最終電車を待っている。鉄道やバスといった交通機関が禁煙でない時代があったのだ。最寄り駅の改札へ最も近いのが末尾の車両の […]
第百九夜   暖房の効いた始発の電車から、透き通った早朝の空気の中ヘ降り立つ。スーツ姿の休日出勤の同志がちらほらと改札への階段へと吸い込まれてゆく。 駅を出てロータリを回り、簡単な朝食を買おうと店を探すと、ちょ […]
第百八夜   取引先と飲んだ酒がようやく抜け、夜道に車を出したときにはもう日付も変わっていた。 都市部を抜けると対向車も少なく、冴えた冬の空気に素通しのLEDの街灯が目に刺さる。十分に酒の抜けた頭は冷静で、自然 […]
第百七夜   「どうする?」 という友人の声が冴えた堂に響き、破れた戸から冬山の闇の雨音の中へ吸い込まれてゆく。 「どうすると言っても……」 灯は堂を朧げに照らすこのガス・ランタンに、LEDの小さな懐中電灯しか […]
第百二夜   小さな商談のために、初対面の女性と駅前で待ち合わせをしていた。約束の十分前からふくろうのオジェの前に立っていると伝えたが、たっぷり五分を待たされて漸く先方から声を掛けられた。 「すみません、私も五 […]
第百夜   風呂上がりの濡れた髪にタオルを巻き、居間兼寝室の炬燵の中で浮腫んだ脚を揉んでいると、風呂場からぎゃあと可愛げのない悲鳴が聞こえた。 ゴキブリでも出たのなら自分で片付けられるような度胸のある妹ではない […]
第九十九夜   初めてデジタル・カメラを買ったという友人から、「新品なのに壊れてるようだ」と連絡が来て、渋々引き受けることにした。 喫茶店で待ち合わせると、気安い仲でこういう物に詳しそうかつ暇そうなのが私だった […]
第九十五夜   嫌な予感と共に目を覚まし、慌てて枕元を探ってスマート・フォンを手に取って確かめると、いつも目覚ましを鳴らしている時刻を優に三十分は回っている。 慌てて飛び起きて寝間着代わりのTシャツを脱ぎながら […]
第九十夜   先方の都合で残業がなかなか片付かず、仕方無しに軽い夕食を摂ろうと職場から最寄りのコンビニエンス・ストアヘ向かう。 人通りもほとんど無くなった裏通りの赤信号を我ながら律儀に待っていると、店の前、横断 […]
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