第百六十五夜   台風の接近で電車が止まったため、定時を回ると社内で小規模な宴会が開かれることになった。 多くが電車通勤であったし、自転車や自動車の連中からも皆が社に泊まるならと言って居残ると言い出す者があって […]
第百六十四夜   社用車を走らせて夏の夕暮れの住宅街からの帰り道、もう午後も七時を回ったというのに空は朱に染まって、通りもまだ明るい。 薄暮。黄昏時ともいう。 こういう中を運転していると、教習所で脅しのように言 […]
第百六十三夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の […]
第百六十二夜   濡れタオルを頭に載せながら昼食休憩を炎天下の公園でとった後、木陰のベンチに腰掛けたまま噴水を眺めながら呆けている。南海上から押し寄せた水蒸気は九州から岐阜の辺りにまで豪雨をもたらして力尽き、関 […]
第百六十一夜   暑くなる前にと午前中に買い物を済ませたものの、強い日差しと湿度の高い空気のために、帰宅したときにはシャツを絞れるくらい汗をかいていた。 居間の冷房を付け、生鮮食品だけ冷蔵庫へ放り込んでから服を […]
第百五十八夜   アパートへ帰って扉を開けると、上がりかまちの上に前足を揃えた虎猫がこちらを見上げて小さく鳴く。いつものお出迎えに対して私もいつも通り帰宅の挨拶をしながら灯を点け、パンプスを脱ぐ。 いつも通りに […]
第百五十七夜   友人に誘われて、人里離れた山奥へ早朝から同僚が合計四人、一台の車に乗り合わせてドライブをしていた。高速道路を下りて一時間ほど走ると、辺りは一面田畑の緑が広がり、その中に点在する一軒の家でセダン […]
第百五十六夜   沢の脇の山道は、梅雨に入り色を濃くした木々の葉に覆われて、低い雲の下に延々と薄暗く濡れてくねくねと登っている。 季節毎に表情を変えるその道を、私は子供の時分からほとんど毎日通って学校へ行き帰り […]
第百五十五夜   電話が鳴った。 温くなった珈琲を片手に、暫く呼び出し音を聞きながら読書を続けるが、誰も電話に出る気配がない。 妻と娘が映画を観るといって出掛けていたのを思い出し、カップを置いて受話器を取りにソ […]
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