第百二十一夜   久し振りの陽気に誘われて、買い物袋を提げながら川岸の遊歩道を歩く。普段なら駅から直ぐに自宅へ向かうのだが、ちょっと脇道へ入れば川沿いに出て、しばらく下流へ向かった先でまた脇道から自宅へ戻ること […]
第百二十二夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の […]
第百二十一夜   週末というのにモヤモヤと気の晴れぬためか、洗濯を済ませたあと買い物を車に積んでの帰り道、ふとハンドルを切って山へ向かうことにした。ラジオのDJが庭の梅にメジロが来たと話すのを聴いて羨ましく思っ […]
第百二十夜   送別会を終えて最終電車の無くなった部下の二人を下ろすと、運転手と二人になったタクシーの車内は急に静かになって、時折鳴る無線の他にはほとんど無音かと思われた。 ラジオかテレビかでもという運転手の提 […]
第百十九夜   向こう一週間の食料の詰まった買い物袋を両手に提げ、近所の公園の横の歩道を歩いている。公園との境は背の低いツツジの生け垣になっており、まだ寒々と茶色い枝や幹を晒している。 その植え込み向こうの芝生 […]
第百十八夜   白地に金の装飾が施された平たい化粧箱を抱えて居間に戻ると、妻はまだ台所の床にしゃがみ込んで、割れた皿の破片を丁寧に拾っては半透明のビニル袋へと移していた。 大きな破片だけ片付けた後は掃除機で吸っ […]
第百十七夜   昼食を終えてデスクに戻り、午後の始業まで目を休めようと目薬を注して目頭を押さえていると、 「先輩、ちょっと相談があるんですけど」 と声を掛けられた。目を閉じたまま、 「え、今?」 と返すと、 「 […]
第百十六夜   何年か振りに、この地域にしては大雪と呼べるような雪の降った晩、寝室の窓を叩く音がしてカーテンを開くと、級友のガキ大将が満面の笑みをたたえて窓の外に浮いていた。正確には雨樋を伝い登り、それにしがみ […]
第百十二夜   積まれた雪の融け残る住宅街の夜道を歩いていると、 「すいません、はい、どうも、ええ」 と、男の大きな声が響いた。相手の声の聞こえないことから推して、携帯電話で話しているのだろう。 振り向いても人 […]
最近の投稿
アーカイブ