第百五十五夜

 

電話が鳴った。

温くなった珈琲を片手に、暫く呼び出し音を聞きながら読書を続けるが、誰も電話に出る気配がない。

妻と娘が映画を観るといって出掛けていたのを思い出し、カップを置いて受話器を取りにソファを立つ。家の電話に出るなんて、何年ぶりだろうか。

受話器を耳に当てながら、
「はい」
と言うと、
「すみません」
と女の声が、
「……さんのお宅でしょうか」
と誰何する。嫁の知り合いが聞き慣れぬ男の声を訝しんでいるのかと思い説明すると、何やら伝言をと言って喋りだす。が、それが全く聞こえない。
「誰に電話をしているんだ」
「誰を頼っても俺からは逃げられないぞ」
「さっさと電話を切れ」
そんな男の怒声が、彼女の声を掻き消さんばかりに受話器越しに響いてくるからだ。

あまり喧しいので受話器を少し耳から離し、
「あの、男の方の声が大きくて、ちょっと聞き取れないんですが」
と返すと、
「え?」
という、落ち着いた、しかし如何にも意表を突かれた風の声を最後に、電話はプツリと切れてしまった。

充電でも切れたのだろうか。用があるなら直ぐに掛け直して来るかと思い暫く待つが、結局、妻と娘が帰宅するまで、電話はうんともすんとも言わなかった。

そんな夢を見た。