第百十八夜

 

白地に金の装飾が施された平たい化粧箱を抱えて居間に戻ると、妻はまだ台所の床にしゃがみ込んで、割れた皿の破片を丁寧に拾っては半透明のビニル袋へと移していた。

大きな破片だけ片付けた後は掃除機で吸ってしまえばいい、後は私がやるからこれを洗っておいてくれと箱を渡す。うっかり皿を割ってしまい、大学の後輩の結婚式の引出物がちょうど同じような大きさだったことを思い出し、納戸で埃を被っていたのを持ってきたのだ。

妻はそれを受け取ると、皿の破片を踏まぬよう足下を確認しながら流し台へ向き直る。

廊下の収納から掃除機を取り出して台所に戻ると、
「ちょっと。これ、気味が悪いのだけれど」
と妻が低い声を出す。
「そりゃ、結婚式の引出物だもの」
おめかしした他人の写真の上に食事を載せて食べるというのは余り気持ちのいいものではない。明日、仕事帰りに代わりの皿を買ってくるから、それまでの辛抱だと言うと、
「そうじゃなくて」
と皿の一枚をこちらへ見せる。
「この人、誰?」
「誰って、そりゃ……」
新妻は私から見れば大学のサークルの後輩で、妻とは同学年で仲も良かった。新郎は就職先の人間で、私も妻も詳しくは知らないが、幾度か既婚者で集まってキャンプに行ったこともある。掃除機を掛けながら、やや大声でそう説明しても妻は、
「嘘。知らない」
と譲らない。年賀状のやり取りくらいはしていたはずだと、掃除機を片付けてからパソコンを立ち上げる。住所録を検索すれば直ぐに後輩夫婦の名が見つかるはずだ。

が、無い。肩越しに画面を見ていた妻が、
「ほら、そんな人いないじゃない」
と勝ち誇り、
「どこでこんなもの手に入れていたの」
と呆れた声で私を責める。

無論、私にこんなものを骨董屋で集める癖など無い。

しかし、幾度確認しても後輩夫妻の住所録は見つからない。

記憶に自信がなくなるとともに、何だか急に不気味に思えてくる。しかし人の顔の印刷されたものをゴミに捨てるのも憚られ、近所の神社に処分を頼むことに決め、皿を戻した箱をビニル袋に入れて塩を振って玄関の外へ出した。

そんな夢を見た。