第百十六夜

 

何年か振りに、この地域にしては大雪と呼べるような雪の降った晩、寝室の窓を叩く音がしてカーテンを開くと、級友のガキ大将が満面の笑みをたたえて窓の外に浮いていた。正確には雨樋を伝い登り、それにしがみついたまま片手を伸ばして部屋の窓を叩いたもので、彼は時折こうして私を夜の冒険へ誘うのだ。

彼は声を潜めて、
「きれいな雪だるまを作るぞ」
と宣言し、音もなく雨樋を滑り降りてからこちらを見上げ、下りてこいと手を招く。

私は仕方なしに寝間着を着替え、押し入れの奥から靴を取り出して、窓から樋へ手を伸ばす。こういうときのために小さくなって捨てることになっていた運動靴をゴミ袋から密かに回収し、隠してあるのだ。これのお陰で、窮屈なのは足だけで済む。

ガキ大将とこそこそ庭を抜け、門の外白い息を吐いていた悪ガキどもに合流する。皆、夕方まで雪を投げて遊んだ顔で、大きな雪だるまを作ろうにも雪が少なく、泥だるまの名こそ相応しかろう出来栄えに落胆した同志達だった。

足下の悪い中を誰からともなく駆け出して向かう先は、どうやら学校のようである。なるほど、この一団の中では、私の家が最も学校に近い。
「学校なんて……」
学校なんて、もう放課後に全校を挙げて雪遊びをし尽した後である。校庭中、泥だるまだらけできれいな雪なんて残っていそうにない。
そんな私の考えを一言で見抜いたか、ガキ大将は口角を上げて、
「いいから来い」
とだけ言うと走る速度を上げた。

やがて学校に辿り着くと、校門の鉄格子を軽々とよじ登って、予想通り薄汚れた雪のちらほらと残る校庭を駆け出す。その行き先に半透明のプラスチック板で覆われた区画を見付け、思わず「あっ」と声が出る。それを聞きつけたガキ大将は私を振り返り、したり顔をしてみせた。

雪に埋もれた六段ばかりの階段を登り、これまた閉ざされた格子戸をよじ登ると、そこには一面真っ白な雪を残したプールが広がっていた。学校のプールといえば夏のものと先入観があって、少しも思いつかなかった。私が素直にそう感想を述べると、彼はこめかみを指で突きながら、
「ここの出来がちがうのよ」
と言って、一メートルほどの深さのプールへ文字通り飛び込む。

それを合図に皆が続き、思い思いに雪玉を投げ始める。ひとしきり暴れて気が済むと、雪だるまを作る相談を始める。

雪玉は重い。大きな雪だるまを作ろうにも、大きな頭部をさらに大きな胴体部分に載せるのは普通ならば困難だ。

しかし、ここはプールである。プールの中でプールの深さと同じくらい大きな胴体を作って、プール・サイドで作った大きな頭を乗せればいい。
 私はプールの中の担当の一人になって、三人で雪玉を転がし始める。雪玉はすぐに大きくなるとともに重くなり、汗を流しながら夢中で押す。

上からの指示に従って胴体を設置すると急に疲れが出て、一息入れようとプールの底に脚を投げ出して座り込む。胴体担当の残りの二人も、すぐにそれを真似た。プール・サイドではガキ大将ともう一人が雪玉を転がしている。雪玉の大きさから人数の割当てが少なかったのだが、狭いプール・サイド中を転がす分だけ時間が掛かっているのだった。

と、手をついた雪の下に何か柔らかい感触がした。雪玉を転がす二人を見守り、小声で声援を送りながら、手探りで雪を除けてみると、細かく長い毛のようなものの生えた丸い物体のようだ。プールの水の抜けないうちにサッカー部の連中が蹴り入れてしまった球に、藻でも生えたのだろう。私はその毛を掴んでさっと立ち上がり、サッカーのキーパがするように足の前に投げて蹴り上げて校庭へ戻し、また雪の上へ座った。
「おい、今の何だ」
と、脇から声を掛けられる。サッカー・ボールを蹴り戻してやったんだと言うと、
「いや、髪の長い、人の頭に見えたんだけど……」
と、友人は声を震わせた。

そんな夢を見た。