第百八夜

 

取引先と飲んだ酒がようやく抜け、夜道に車を出したときにはもう日付も変わっていた。

都市部を抜けると対向車も少なく、冴えた冬の空気に素通しのLEDの街灯が目に刺さる。十分に酒の抜けた頭は冷静で、自然と速度を落とし、街灯の照らす光の輪の外の余計に黒々した闇に異状が無いかを確かめながらハンドルを握り続ける。

自宅へと曲がる小さな交差点の手前ヘ来ると、その二十メートルほど手前に赤い回転灯が回っているのが見える。二人組の婦人警官がミニ・パトの後ろに立って、車を寄せるように合図をする。年末年始には恒例の、飲酒運転を取り締まる検問だろうと推測しながら足をブレーキに移す。

ウインドウを下ろすと若い婦警がこちらを覗き込み、ぶっきらぼうにビニル袋を差し出して息を吹き込めという。先刻からほとんど車を見ていないから、仕事が無くて退屈だったのだろうか。愛想の悪さの理由を勝手に想像しながら、酒の抜けている自信はあったので素直に従う。

呼気にアルコールの出ないのがわかると、
「ご協力ありがとうございました。どうぞ安全運転でお願いします」
と、抑揚のない声で送り出してくれる。

車を出したはいいものの、間の悪いことに赤信号に捕まり、ウインカを出して停まる。それにしても、
――車が少ない。
正月も七日を過ぎたとはいえ、これほど寂れた道だったろうかと辺りを見回すが、交差点を渡る車も、対向車も無い。鏡に目を遣り背後を確認しても、やはり一台の車もない。

信号が変わってゆっくりと角を曲がると街灯が減って急に目先が暗くなる。

それと同時に、奇妙な事に気が付いた。バックミラーを覗いたとき、検問のミニ・パトを見なかったのではないか。
――きっと検問の時刻を過ぎて、回転灯を消していたんだ。それで目立たずに見落としたんだ。

そんな夢を見た。