第二十九夜 寝付かれずに布団の上で身を捩る。何とは無しに目を開けると、何が光源になっているのか、青く暗い部屋の様子が辛うじて見える程度には明るい。 どきりとした。視線の先で、扉が閉まっていたからだ。寝室の扉は寝る前に必ず […]
第二十五夜 給食を食べながら、一体どんな話の運びだったか、放課後に教室へ集まってコックリさんをしようということになった。 できるだけ雰囲気があったほうが好い。冬の陽の傾く四時半頃、一遊びしても最終下校には間に合うだろう時 […]
第二十二夜 「お客人、お客人」 と涼しくも艶のある声に呼ばれて辺りを見回す。背後には宿坊の濡れ縁、目の前には冬枯れの枝ぶりからも秋の紅葉の目に浮かぶような楓に囲まれ覆われた池の水面。人の姿はどこにもない。 「お目をもそっ […]
第二十一夜 社屋に着くと、入り口のガラス扉の前に制服警官が二人仁王立ちをしていた。社員証を見せると、中で現場検証をしているので規制線の内への立ち入りは現場の警官へ許可を取るようにと言って脇へ退く。 「何か事件が?」 と左 […]
第十五夜 車内アナウンスで次のバス停の名前が告げられ、降車ボタンを押すよう促されて右手を持ち上げると、先に誰かがボタンを押したようで 「次、停まります」 の声が車内に響いた。 程なく停車し、大学生くらいの五人組、仲の良さ […]
第十四夜 駅からの帰路、小さな交差点を左へ曲がり細い道に入る。街灯が少ないのに応じた分だけ、自転車の灯が強まったように思われる。 小路との三叉路を一つ、交差点を一つ過ぎ、右手に駐車場が見えたところで前籠の鞄からキーケース […]
第十二夜 夕まづめ。ユスリカが羽化をしようと湧いて立つのを食らってやろうと、葦のしがらみの陰から泳ぎ出る。昨夜は上流で雨でも降ったか、水はやや濁って流れも早い。 こんな日は食事に夢中になって流される者が少なくない。すると […]
第十一夜 夜の山道を下り、冬枯れた水田に挟まれた交差点で信号に引っ掛かると、辻を四隅から照らす街灯の明るさに安堵する。山の中に慣れた目には、昼のように明るいといっても大袈裟ではない。人間というのはつくづく昼行性の動物なの […]
第八夜 LEDの強い灯の下、ドラムの回る低い振動音を聞きながら、茶色いビニル張りの長椅子に深く腰を掛けて漫画雑誌の頁を捲る。洗濯機の振動音がこんなに大きく聞こえるのは深夜だからか。大通りの交通量も人通りも、普段この店を利 […]
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