第八十一夜

 

引っ越しの荷物を積んだ車に乗り込む両親を見送って、弟の手を引きアパートの部屋に戻るのは今日二度目だった。幼い弟は引っ越しにおいては戦力外、と言うよりは寧ろ足手纏であり、私も力仕事の役には立たないので、少なくとも大きな荷物が片付くまでは弟の面倒を見てほしいということで、二人で留守番だ。

サムターンを回して施錠すると、いよいよダンボールも無くなってガランとした部屋に金属の噛み合う音が大きく響くのに驚く。大型の家具やカーテンが無いせいでいつになく音が反響するのだろう。

残されているのは座布団と卓袱台、その上に、先程まで二人分の昼食の載っていた食器、私の読む小説と弟の玩具が少々。夕方までに新居に大きな家具を設置し、細かな荷物を運ぶだけ運び込んで、夜にはひとまずあちらで眠れるようにするという計画だと聞かされている。
「かくれんぼ!」
弟が提案するのも無理はない。私も既に本を読み終え退屈していたので快諾する。といっても狭いアパートのこと、隠れる場所は玄関脇の風呂、その隣のトイレ、トイレの正面の流し台の下、居間から見てトイレ側にある押入れ、その上のロフトくらいのものである。

じゃんけんで負けた私が部屋の一番奥、小さな植え込みに面するガラス窓に額を押し付けてゆっくりと数字を数え上げる。と、ドタドタと走る足音もいつもより大きく響く。足音はあちこち迷ったように近付いたり遠ざかったりしながら、結局居間の扉を開けて離れた。続いて、
「もーいーよ」
の声がくぐもって聞こえる。

押入れを開け、ロフトの梯子を昇る振りをしながらわざとらしく、
「あれー、いないなー」
と繰り返し、流しの下の戸を開けると、案の定弟がしゃがみ込んでいる。

が、見つけたと宣言しても、ピクリとも動かない。どうしたのかと声を掛けても無言のままだ。心配になって手を伸ばそうとしたとき、
「どうしたの?こっちだよ」
と、居間の高い位置から弟の声がして、慌てて居間へ戻ってロフトを見上げると、半べそをかいた弟がこちらを見下ろしていた。

そんな夢を見た。