第八十五夜   朝の列車というのは不思議な空間である。 一定の空間内に限界まで人が密集していながら皆が周囲に無関心であり、気力の充実しているといないとに関わらず、精々が情報集や勉強をする程度で、出来る限りエネル […]
第八十一夜   いつもの公園のいつものベンチに腰を下ろし、冷凍食品を詰め込んだだけの小さな弁当箱を膝に載せて噴水を眺める。 久し振りの秋晴れの昼休みに味わう、ささやかな贅沢である。 小さな弁当箱はすぐに空になる […]
第八十三夜   終電を最寄り駅で降りると、疲れきった頭と身体は習慣に引き摺られて半ば無意識に改札を出て家路を辿る。 駅前のロータリーを抜けて交差点を斜めに渡ると、そのまま公園へ入る。律儀に公園の周囲を周るより中 […]
第八十二夜   トルコ人の友人がケバブの屋台を手伝えと連絡をしてきたのは昨夜のことだった。気温の急変にやられて風邪を引いた相棒の代わりに、接客だけしてくれればというので軽い気持ちで引き受けた。 朝から秋葉原、上 […]
第八十一夜   引っ越しの荷物を積んだ車に乗り込む両親を見送って、弟の手を引きアパートの部屋に戻るのは今日二度目だった。幼い弟は引っ越しにおいては戦力外、と言うよりは寧ろ足手纏であり、私も力仕事の役には立たない […]
第八十夜   深夜の自動改札を抜けて階段を昇ると、まるで人気の無いホームに出た。 普段は最終電車で帰るのだが、その場合ホームはもう少し賑やかだ。今日は少し早めに仕事を切り上げた分まだ数本の電車が残っているはずだ […]
第七十九夜   遂にこの日が来たのだ。 檻の中のマウスの背中を見た私は、一切の誇張なしに全身を震わせ助手たちの目も憚らず感涙を流した。 必死に学問を修めて、不妊治療の世界で夜に認められ、万能細胞の技術を学び、中 […]
第七十八夜   強くはない酒を無理に呑み、終電でようやく帰宅した。これも仕事のうちとはいえ、心にも身体にも負担は大きい。自分がまだ若いと思えるうちに、他の仕事に回らなければ。 そんなことを考えながら、兎に角風呂 […]
第七十七夜   柿や栗といった秋の味覚と引き換えに山の手入れを手伝ってほしいと友人に頼まれて引き受けた。早朝迎えに来た車に揺られて一時間、彼の実家で軽トラックに乗り換えて十五分ほど経ったろうか、山の中腹にぽっか […]
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