第七十六夜   「いやね、働いてる身としてはサ、実際ただの職場だから」。 わざとらしく眉を顰め、いかにも飽き飽きしているという様子で男が言う。酒の席で彼の職業を初めて聞いた者は必ず、何か不思議な体験をしたことは […]
第七十五夜   旅先の山中に人気のない神社を見付け参拝を済ませると、奥の蔵の石段の陽溜まりに腹を出して眠る一匹の三毛猫がいるのに気が付いた。 リュック・サックからカメラを取り出してその前にしゃがみ込むと、彼女は […]
第七十一夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客 […]
第七十一夜   トイレに入ると個室の扉が三つ並んでいる。人はいない。が、奥から人の話し声が聞こえる。手前の個室の鍵を確認すると青い表示が見えるので中に入る。中央と奥とでおしゃべりをしているのだろう。 便座に腰を […]
第七十二夜   大学の夏休みは長過ぎる。そんな時間を持て余した学生達が集まる大学のサークル室で、時折雑談を交わしながら、あるものは勉強をし、またあるものは代々伝えられてきた漫画を読み、ゲームに興じている。 盆に […]
第七十一夜   同じマンションに住む同級の友人と部活の早朝練習へ行くのに、一階のロビィで待ち合わせた。ふと玄関の外を見れば、午前六時の空は夏休み中のそれに比べて紫がかって見える。 陽の昇るのが遅くなってきたと言 […]
第七十夜 残暑の厳しい中、秋葉原の電気街で買い物をした。先日の落雷で職場のコンピュータが壊れ、部品の購入を任されたのである。 用事を済ませ一休みしようと公園へ入ると、平日の昼とはいえ妙に人気の無いのが気になる。木陰の長椅 […]
第六十九夜 事務所で机に向かいカタカタとキィ・ボードを打っていると、「こんにちはー」と語尾の間延びした大声とともに長い茶髪の女性が入ってくる。 仕事上の知り合いで、まだ若いのにこれでもかと派手な服装と化粧をしていることも […]
第六十八夜 運動不足を解消するのに、少々高い自転車を買った。道具を用意したのはいいのだが、元来が運動不足になるような出不精だ。単に運動のため出掛けるのが億劫なのは言わずもがなである。そこで一念発起して、休日には手頃な観光 […]
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