第九十五夜
嫌な予感と共に目を覚まし、慌てて枕元を探ってスマート・フォンを手に取って確かめると、いつも目覚ましを鳴らしている時刻を優に三十分は回っている。
慌てて飛び起きて寝間着代わりのTシャツを脱ぎながら枕元の目覚まし時計を見ると、現在時刻から一時間遅れたところで針が止まっている。最後に電池を変えたのはいつだったろうかと考えながら、ハンガーに掛け放しのワイシャツに袖を通す。朝食を摂っている暇はない。
ボタンを留めながら、背の低い箪笥の上の小物入れに目をやると、いつもそこに仕舞っているはずの腕時計が見当たらない。昨日、風呂へ入る前に何処へ置いたろうかと思い出してみるが、やはりここへ置いたはずだ。
心の中で首を捻りながらスーツのズボンに脚を通しつつ辺りを見回す。
――あった。
小物入れと並んで置かれた筆立ての隣に、クマにしては長いその両腕でこちらへ恭しく捧げるように、昔友人から貰ったぬいぐるみが腕時計を持って座っていた。
その頭をひと撫でしてから腕時計を手に取って左腕に巻きながら、そういえばその友人とは暫く連絡を取っていないことを思い出す。元気にしているだろうかと、妙に胸が騒ぐので、電車の中で電子メールでも送ってみようかと思いながら上着を羽織ると、スマート・フォンが電話の着信音を鳴らし始めた。
そんな夢を見た。
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