第九十六夜

 

低く垂れ込めた雲に薄暗い通学路を、傘を差して歩く。大振りなゴム製の雨靴の中で足が前後左右にずれて歩き難い。頻繁に履くものでもないのにどうせ直ぐに成長して履けなくなるからと、梅雨の時分に大きめのものを買ったせいだ。

粒の小さな雨が傘を叩き、骨の先から舗装の凹みに出来た水溜リへと滑り落ちる。その様子に夢中になりながらブカブカの雨靴を前後させているうち、いつの間にか校門ヘ着いていた。昇降口へ向かって、校庭の所々に出来た珈琲牛乳色をした水溜りをわざと選んで歩く。

昇降口の庇の下へ着き、傘を畳みながら傘立てを見る。三本しか傘がない。不思議に思ってよく見れば、どれも雨に濡れた様子はない。置き傘のようだ。
――おかしい。まだ誰も学校に来ていないのだろうか。

そういえば登校中も校庭でも、誰にも会わなかったような気がする。今この昇降口にいるのも、自分独りだ。

家を出たのはいつも通りの時刻だったから、誰にも会わぬというのはなかなか尋常ではない。ひょっとしたら祝日か何かで、今日は学校が休みだったのだろうか。

そんな不安に駆られつつ、誰か来はしまいかと入り口を振り返る。青く澄んだ秋空の下に、乾いた校庭が広がっていた。

そんな夢を見た。