第九十四夜   学生街のアパートへ、酒と肴の入ったビニル袋を提げて友人を尋ねた。 キャンパスにほど近い都内の一等地に有りながら破格の家賃で、貧乏学生には有り難いのだそうだ。 大学へも駅へも徒歩二分など羨ましい限 […]
第九十三夜   めっきり冬めいて水気の多い地面がすっかり冷えきっているためか、店の空気はなかなか暖まらない。 ココアでも飲もうと、カウンター裏の小さな台所で牛乳を鍋に入れて火にかける。 ココア・パウダーの包装の […]
第九十二夜   川へ釣り糸でも垂らそうかと思い立ち、始発から電車を乗り継いで山の中の駅へ降りた。改札を出ると小さな駅舎の前を通る細い舗装路があって、そこを五分も歩けば川岸へ下りるコンクリート製の階段があって、釣 […]
第九十一夜   ごつりと頭を打って気が付くと、黒い床の上へ頭を打ったらしい。辺り一面にぎっしりとひしめく仲間達も皆同じようで、気の付いたものは辺りをぐるぐる見回して首をかしげている。 ここは何処だ。 回りの仲間 […]
第九十夜   先方の都合で残業がなかなか片付かず、仕方無しに軽い夕食を摂ろうと職場から最寄りのコンビニエンス・ストアヘ向かう。 人通りもほとんど無くなった裏通りの赤信号を我ながら律儀に待っていると、店の前、横断 […]
第八十九夜   パチリ、またパチリと硬い音が繰り返されるのが気になって薄目を開ける。私を起こさぬよう気を遣っているのか照明は常夜灯のみで薄暗い中、傍らのソファで女が爪を切っている。私からはまともに色も見えぬ暗さ […]
第八十八夜   稲刈りを終えても、冬支度に追われる村の秋は忙しい。それでも「雨の日くらいは相手をしろ」と庄屋様に呼ばれ、濡れ縁に腰掛けて碁を打っていた。なにしろ立派な屋敷で軒が深い作りなものだから、少々の秋湿り […]
第八十七夜   友人の別荘をお暇して暗い山道を下っていると、頭の上で大きく両手を振るヘルメット姿の人影をヘッド・ライトが照らし出した。細いジーンズに包まれた腰回りからして、どうも女性のようだ。 慌ててスピードを […]
第八十六夜   秋の夜道は街灯に照らされてなお足元が暗く、それでも重くダブつくスカートは自転車を飛ばすのには向いていない。ズボンを穿いてくればよかったと後悔する。塾で居残り勉強を命じられ帰宅が遅くなってしまった […]
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