第百十九夜   向こう一週間の食料の詰まった買い物袋を両手に提げ、近所の公園の横の歩道を歩いている。公園との境は背の低いツツジの生け垣になっており、まだ寒々と茶色い枝や幹を晒している。 その植え込み向こうの芝生 […]
第百十八夜   白地に金の装飾が施された平たい化粧箱を抱えて居間に戻ると、妻はまだ台所の床にしゃがみ込んで、割れた皿の破片を丁寧に拾っては半透明のビニル袋へと移していた。 大きな破片だけ片付けた後は掃除機で吸っ […]
第百十七夜   昼食を終えてデスクに戻り、午後の始業まで目を休めようと目薬を注して目頭を押さえていると、 「先輩、ちょっと相談があるんですけど」 と声を掛けられた。目を閉じたまま、 「え、今?」 と返すと、 「 […]
第百十六夜   何年か振りに、この地域にしては大雪と呼べるような雪の降った晩、寝室の窓を叩く音がしてカーテンを開くと、級友のガキ大将が満面の笑みをたたえて窓の外に浮いていた。正確には雨樋を伝い登り、それにしがみ […]
第百十五夜   スキー旅行に来た夜のことである。日暮れからひどく吹雪いて、洒落た丸太小屋の軒をかすめる風の音の凄まじさに、昼間滑り疲れた身体を抱えながらなかなか寝付かれずに便所へ立った。 用を足して部屋に戻ると […]
第百十四夜   ハイキングに出掛けて見付けた山小屋風の喫茶店で、静かに珈琲を楽しんでいると、ピィピィと力強い鳥の声が窓外から聞こえた。 それに釣られて庭に目を向けると、冬の陽のよく当たる斜面に黄色い実を付けた常 […]
第百十三夜   荷物を網棚に載せ、吊革を両手で握って目を閉じている。石油ストーブを焚くとすぐに頭痛のする質で、満員電車の酸素が薄いのか二酸化炭素が濃いのか知らないが、やや気分が悪くなっていたからだ。 少々手の痛 […]
第百十二夜   積まれた雪の融け残る住宅街の夜道を歩いていると、 「すいません、はい、どうも、ええ」 と、男の大きな声が響いた。相手の声の聞こえないことから推して、携帯電話で話しているのだろう。 振り向いても人 […]
第百十一夜   雪のちらつくホームの端で、直ぐ後ろから流れてくる煙草の煙に目を半ば閉じながら最終電車を待っている。鉄道やバスといった交通機関が禁煙でない時代があったのだ。最寄り駅の改札へ最も近いのが末尾の車両の […]
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