第百三夜   後ろ手に施錠しながらハイ・ヒールを脱ぎ、灯もつけぬままベッドに突っ伏す。 スーツを脱がねば皺になる。化粧を落とさねば肌が荒れる。コンタクト・レンズを外さねば目が傷む。それら全てがあまりにも億劫で、 […]
第百二夜   小さな商談のために、初対面の女性と駅前で待ち合わせをしていた。約束の十分前からふくろうのオジェの前に立っていると伝えたが、たっぷり五分を待たされて漸く先方から声を掛けられた。 「すみません、私も五 […]
第百一夜   買い出しから帰ると、妹が馬面になっていた。 と言っても、極端に面長になっていたという意味ではない。文字通り、首から上が馬のものになっていたのである。クリスマス用にパーティ・グッズでも買ってきてから […]
第百夜   風呂上がりの濡れた髪にタオルを巻き、居間兼寝室の炬燵の中で浮腫んだ脚を揉んでいると、風呂場からぎゃあと可愛げのない悲鳴が聞こえた。 ゴキブリでも出たのなら自分で片付けられるような度胸のある妹ではない […]
第九十九夜   初めてデジタル・カメラを買ったという友人から、「新品なのに壊れてるようだ」と連絡が来て、渋々引き受けることにした。 喫茶店で待ち合わせると、気安い仲でこういう物に詳しそうかつ暇そうなのが私だった […]
第九十八夜   秋雨の冷たく降るとはいえ、たまの休日の勿体なさに散歩を兼ねて買い物へ出たが、夕刻の帰途もなお傘を打つ雨の勢いは衰えず、コートの襟に首をすくめながら、点々と街灯の灯る橋を渡る。渡った橋を振り返りビ […]
第九十七夜   授業の終わった姉に手を引かれて家に帰ると、普段ならこんなに早く帰宅しているはずのない母が落ち着かぬ様子で箪笥を漁り、旅行鞄へ荷物を詰めていた。 喪服や数珠を鞄に詰めながら姉に説明する母曰く、親戚 […]
第九十六夜   低く垂れ込めた雲に薄暗い通学路を、傘を差して歩く。大振りなゴム製の雨靴の中で足が前後左右にずれて歩き難い。頻繁に履くものでもないのにどうせ直ぐに成長して履けなくなるからと、梅雨の時分に大きめのも […]
第九十五夜   嫌な予感と共に目を覚まし、慌てて枕元を探ってスマート・フォンを手に取って確かめると、いつも目覚ましを鳴らしている時刻を優に三十分は回っている。 慌てて飛び起きて寝間着代わりのTシャツを脱ぎながら […]
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