第百四夜

 

忘年会の酒の残って重い頭と体とを無理に布団の外へ引きずり出して早起きをした。昨晩、酒席特有の特に意味の無い会話を上の空で聞き流しながら、年末をできるだけぐうたら過ごすための計画を立てており、その第一手が今日の午前中に大掃除を片付けてしまうことだったからだ。面倒事は先に片付ける習性なのだ。

簡単な朝食を終え、早速バケツにぬるま湯を張って拭き掃除から始めたのは、ハタキや掃除機よりも先に水拭きをしたほうがホコリが立たぬと聞いたことがあったからだ。

帰宅すれば風呂に入って寝るだけという独り暮らしの部屋だから、手間のかかるのは電灯の傘くらいで直ぐに拭き終わる。やれやれと辺りを見渡すと、今年の春に入居したときから備え付けられていた大きな箪笥が目に入る。

古びたパイプのように艶やかな赤に輝く樫の洋箪笥で、上半分はクローゼット、下半分は引き出しなっている。そのままの大きさではこの部屋に運び込むこともできないから、恐らくその真ん中で二つに分かれているのを積んであるのだろう。

椅子を踏み台しにしてその上部に積もったホコリを拭うと、壁との間に僅かな隙間の開いているのが見えた。
――面倒なことになった。

隙間の壁や床の掃除となると、中身を全て取り出して動かすとなると一苦労だ。初めからそこにあったものだから、改めて意識するまで動かすという発想がなかった。

掛けてある服を出し、抽斗を取り出して動かすとなるとそれなりの重労働だ。そもそも自分で運んだものでないから、自分の手で動かせる保証もない。

壁さえさして汚れていなければ目を瞑ろうと思い、試しに上半分を手前に倒してみると、重いながらもなんとか傾く。傾きを維持しながら脇へ回って壁との隙間を見ると、白い壁紙の中に薄い木目の板が見える。ゆっくりと箪笥を元に戻す。

どう見ても扉だった。

箪笥と扉とに隙間はほとんど無いから、ノブは外してあるのだろう。

部屋はワン・ルームとして紹介されていた。もちろん図面にこんな扉があることも示されてはいなかったし、扉の向こうに部屋があるとも聞かされていない。

気味が悪くなって不動産屋へ電話をするが、生憎あちらも仕事納めが済んだようで、年末年始の休業案内を淡々と告げる女性の音声が流れるばかりだ。

年明けの営業日まで、この正体不明の扉のある部屋で過ごさなければならないのかと思うと気が滅入る。

ひとまず箪笥の裏の掃除は諦めて昼食と年末年始の食料の買い出しに出掛け、そのうち扉のことを忘れられるよう祈ることにした。

そんな夢を見た。