第百二夜

 

小さな商談のために、初対面の女性と駅前で待ち合わせをしていた。約束の十分前からふくろうのオジェの前に立っていると伝えたが、たっぷり五分を待たされて漸く先方から声を掛けられた。
「すみません、私も五分前には着いていたのですが……」
と頭を下げる女性へ、
「いえ、社内ではいつも影が薄い、いるかどうか解らないと言われますので、お気になさらず」
と自嘲気味に笑う。

そんなことは無いと社交辞令を返すと、彼女は打ち合わせに都合の良い喫茶店があると言って歩き始めた。
「学生の頃に数人で飲食店に行って、自分だけ水が来ないなんてこともありましたよ」
店まで無言で歩くのも間が悪いので、手持ち無沙汰にそんなことを言うと、
「あ、私は反対のことがよくあるんです」
と、足を止めることなく彼女がこちらを振り返って言う。
「高校生くらいからかな。一人でいるときに、隣の人は誰って聞かれたり、水が一つ多く出されたり」
「ああ、怖い話によくあるパターンですね」
「はい。霊感なんて何も無いんですけどね。金縛りに遭ったこともないのに、『あなたは優しいから頼られて、憑かれ易いから気を付けろ』なんて、よく言われるんです」

話すうちに小綺麗な喫茶店へ着き、案内されて四人掛けの卓へ荷物を置く。彼女の対面に腰を下ろしたのは打ち合わせの当然の流れである。

そこへ給仕が水の入ったグラスを、ちょうど二つ運んできた。

そんな夢を見た。