第三百三十夜   「立ち止まらずに御覧下さい」のアナウンスも虚しく、展示品の前には黒山の人集りが出来、列は遅々として進まないでいた。 列から離れた後方の空間に立ち、特別展示の期限ギリギリまで予定を延ばしたのは失 […]
第三百二十九夜   パート帰りに買い物をして、それを冷蔵庫に詰めながら夕食の献立を考えていると、普段は日溜まりで寝てばかりいる三毛が脛に絡み付いてきた。 買い物ついでおやつを買ってきたとでも思ってねだっているの […]
第三百二十七夜   マスタードの効いたソーセージを齧り、口の脂をライムの効いたカクテルで流す。週に一度、今週も折り返しまで頑張った自分への褒美として、仕事帰りに楽しむ「いつもの」メニュだ。 大きな繁華街の隅にあ […]
第三百二十五夜   カップになみなみと注いだココアを片手に書棚を見回し、雑誌を手に取って指定された番号の席を目指してそろそろと歩く。 間もなく扉の空いたままの座敷席を見つけ、荷物を置いて靴を脱ぎ、背後の扉を閉め […]
第三百二十四夜   妻がインフルエンザで床に伏せたために、娘達の弁当など慣れない朝の支度に手間取って、家を出るのが普段より三十分ほど遅くなった。 最寄り駅までの道を人の流れに沿って歩きながら、今晩はどこかで妻の […]
第三百二十三夜   仕事の都合で二週間だけ、急に他県へ赴任することになった。従業員にインフルエンザが蔓延して仕事が回らなくなったのを、各地から人員を掻き集めて補うためだ。 僅かな期間の赴任だが、それなりの人数を […]
第三百二十二夜   温かい布団の魔力からいつもより三十分も早く抜け出し、母に急かされながらどうにか支度をして家を出ると、冷たく湿度の高い空気が頬に絡みつき、吐く息が顔の前で白くなった。 ――暖冬暖冬といいながら […]
第三百二十一夜   仕事に一区切り付いた祝いに酒を飲み、二次会三次会へだらだらと付き合っているうちに、うっかり最終電車を逃した。 タクシィ代は財布に響くと嘆いていると、後輩の一人がJRの駅を指差しながら、 「う […]
第三百二十夜   職業柄正月に休みが取れぬので嫁と子供達とだけで嫁の実家へ帰省させたのだが、帰宅するにつけ朝起きるにつけ、家の中がぽっかりと孔の空いたように広々としていた。 書き入れ時の忙しい合間、僅かな休憩中 […]
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