第七百五十二夜    トイレから出てハンカチで濡れた手を拭きながら、 「到着するなり申し訳ありません」 と、丸テーブルに書類やタブレットPCを並べていた女性へ、苦笑しながら軽く頭を下げた。 「腸炎か何かですか? […]
第七百五十夜    日射しこそ春めいて暖かながらまだ空気の凛と冴えた朝、通勤列車を降りると改札へ向かう人混みに見知った華奢な背中を見つけた。ちょうど昨日一人で訪れた映画館でたまたま鉢合わせ、せっかくだからと上映 […]
第七百四十九夜    放課後の職員室で学年末試験の解答用紙を整理していると、隣の机へ教頭がやってきて、 「これ、例のもの」 と同僚へ掌大の白い紙袋を渡した。同僚はさも嬉しそうにそれを受け取り、お代はといって財布 […]
第七百四十二夜    連休明け、同僚が何やら浮かぬ顔をしてやってきた。朝から随分とお疲れかと尋ねると、小さな子供がいるから体力的に疲労をするのは確かだが、浮かぬ顔を隠せていなかったのならそれは別の要因だと言って […]
第七百四十一夜    昼休みに外食から戻ってきた同僚が、小さな香水の瓶の入ったピンク色のラバーケースを指に引っ掛けて揺らしながらデスクに戻ってきた。スーツに身を包んだ巨体にまるで似合っていない。  それを見た後 […]
第七百三十七夜    午前中で簡単なホーム・ルームを終えて帰宅しようと席を立ったところ、 「すみません、ちょっとだけお時間を宜しいでしょうか」 と女の子の声がした。目を遣ると何やら冊子の束を抱えた女子生徒が、担 […]
第七百三十四夜    就業時間を終えて特に残業もなく、身支度を終えたものから三々五々帰宅を始める中、上司から珍しく晩飯でもどうかと誘われた。上司は既婚者でもあり、酒も強くないと自称していたから、まさか声を掛けて […]
第七百三十三夜    目が醒めて枕元の目覚まし時計を確かめると、既に十時を回っていた。まあ先程眠りに就いたのが朝方の五時頃だったから仕方がない。普段なら遅刻だと慌てるところだが、インフルエンザで出勤停止なのだか […]
第七百三十夜    実家に着いて玄関に荷物を置くなり、買い出しに出る車の運転を頼まれた。部屋に荷物を運ぶくらいはさせてくれと言って居間の甥や姪たちに挨拶をし、仏間の脇を通って階段を上がって部屋に荷物を置く。珈琲 […]
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