第四百三十三夜   仕事で招かれた先であてがわれた宿は、海に切り立つ崖の上に建っていた。このご時世で客も従業員も少なく、宿の主人がしきりに碌な饗しが出来ないと頭を下げたがとんでもない、海の幸と甘い地酒が大いに気 […]
第四百三十一夜   会計を終えた商品を買い物袋に詰め終えて、一階出口へ続くエスカレータへ向かうと、トイレの前のベンチに小さな子供を抱いた若い母親が座っているのが見えた。 言葉を話し始めたばかりの頃なのだろう、母 […]
第四百三十夜   深夜、バック・ヤードで雑誌を読んでいると、監視カメラのモニタに駐車場へ入って来る大型トラックの姿が見えてレジへ出る。 間もなく件の運転手と思しき若い男が入店し、いらっしゃいませと声を掛ける私に […]
第四百二十九夜   午後の陽の柔らかく当たるベランダで並べたプランタを弄っていると、尻のポケットに入れたスマート・フォンが短く振動した。 剪定した葉や落ち葉をゴミ袋に入れてその口を縛り、生ゴミ用のバケツに片付け […]
第四百二十五夜   求人情報を見付けて訪ねた雑居ビルの二階、衝立で仕切られた面接室らしき区画に受付の女性に案内され、 「そちらへお掛けになってお待ち下さい」 と、椅子を勧められる。 直径二メートルほどの白い円卓 […]
第四百二十四夜   モニタに資料を大映しにして眺めながら発言者の言葉に耳を傾けつつ、あと十数分でやってくるだろう昼食休憩のメニュを考えていると、発言者の後ろで何かガサガサと物音のするのが耳に付いた。 オンライン […]
第四百二十一夜   隣に若い夫婦が越してきて一年が経った。 定年退職した上に外出自粛とあって、屋内でもできる趣味にと将棋を始めたのだが、昼食を終えて腹のこなれた頃合いに将棋盤を引っ張り出すと、平日はほとんど毎日 […]
第四百十八夜   大晦日も午後の十時を回り、店番を妻に任せて出前先の食器の回収に出る。 夕方から配達して回った出前先のリストを持って軽自動車に乗り込み、エンジンを暖気しながらカー・ラジオを点けると、毎年聞き慣れ […]
第四百十七夜   クリスマスの早朝、白い息を吐きながら荷台に酒を積み終えると、いつものルートでいつもの配達に出掛ける。 凛と冷えて静かな街にトラックを走らせ、お客から預かった鍵で無人の店舗へ荷物を搬入し、回収す […]
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