第四百十七夜

 

クリスマスの早朝、白い息を吐きながら荷台に酒を積み終えると、いつものルートでいつもの配達に出掛ける。

凛と冷えて静かな街にトラックを走らせ、お客から預かった鍵で無人の店舗へ荷物を搬入し、回収する瓶を搬出して施錠する。中には帰り損ねた店員や店長がいることもあり、また来年も宜しくと挨拶を交わす。今年最後の配達なのだ。

仕事が八分目まで片付いたところで、駅からほど近いビルの前に、この時間にこんなに人が居たのかと思うほどの人集りができてるのが目に入る。次の店舗のすぐ脇だ。

近付くと、車から何やら女性の声が流れていて、それを不審に思った人々が取り囲んでいるらしい。

車を降りると、半ば機械的な響きのするように加工されたのかそれともスピーカの質が悪いのか、どこか違和感のある女性の声が、
「この車は六十五分後に爆発します。皆さん離れてください。爆発します」
と繰り返しているのが聞き取れた。

クリスマスの朝から質の悪いジョークだと苦笑いをしながら、人集りを横目に仕事を片付けると、例の車からは、
「五十九分後に爆発します」
のアナウンスが流れており、取り囲む人の数も少々減ったようだった。なんともマメなことに、猶予時間を丁寧に宣言しているらしい。声の様子に一切の変化がなく、一定のリズムで淡々と繰り返していることから、合成音声や、音声素材を編集したものだろうと思われる。

そんなことを考えながら荷台のゴム紐を縛っていると、人集りの中に居たらしいこの店の店長がこちらに気付いて近付いてくる。彼は難しい顔で挨拶をしてから、
「これをどう思う?本当に爆発するかな?」
と不安そうだ。自分の店の目の前でこんな事が起これば、それは仕方がない。だが、そんなことがあるものか、テロリストならわざわざ馬鹿正直に退避勧告を流したりはしないだろう。そう言ってやると彼は自分に言い聞かせるように、
「そう、そうだよな」
と何度も頷く。まだ配達が残っているからと告げて彼と別れ、別のブロック、別のストリートと回って仕事が片付き、郊外の倉庫へ車を走らせていると、ドンと車の窓が揺れ、続いて重い爆発音が轟く。
――まさか。

慌てて車を脇へ寄せて止め、窓から顔を出して振り返ると、七マイルは離れた駅の辺りに黒煙が立ち上っているのが見えた。

そんな夢を見た。