第四百三十夜

 

深夜、バック・ヤードで雑誌を読んでいると、監視カメラのモニタに駐車場へ入って来る大型トラックの姿が見えてレジへ出る。

間もなく件の運転手と思しき若い男が入店し、いらっしゃいませと声を掛ける私に、便所を借りたいと言うので、店の奥を手で示す。

疫病騒ぎがあって直ぐ、フランチャイズの親会社からは便所を貸さないように指示が来た。しかし、ここは住宅街の外れのバイパス沿いのコンビニエンス・ストアだ。近所の住宅や店舗のお客様が無い訳ではないが、売り上げのメインはこうした運転手達で、課さない訳にはいかないのだ。こうして訪れた以上、彼等はどこかで用を足す必要があるわけで、近隣の同業店舗を回る足も持っている。一度断ってしまえば次にこの道を通る際に立ち寄る候補からは、永遠に除外されてしまうだろう。だから、利用禁止の貼紙こそしてあるものの、頼まれれば貸す。

有難うと手を上げて奥へ歩き出す運転手を見送って、レジ・カウンタの中に戻る。何とは無しにバック・ヤードのモニタを見ると、便所の扉の前に立った運転手が苛立たしげに踵を揺らしている姿が映っている。まるで先客を待っているかのような仕草を不審に思い、小走りに彼に近寄って、
「どうかなさいましたか?」
と尋ねると、案の定、誰か使っているようだと口を尖らせる。そんなはずは無い。日付の変わる前に店に入って以来、便所を利用したのは既に帰宅したバイトだけなのだから。

実際鍵の表示は青であり、つまり鍵は掛かっていないらしい。どうして中に人がいると判ったのかと問うと、中から人の声がしたという。言われて耳を澄ましてみれば、なんと確かに戸の向こうから女が低くボソボソと呟くような声がする。

中に誰かいるのか、体の具合でも悪いのかと声を掛けると、しかし問い掛けに返事はなく、代わりにぴたりと静かになった。

気味は悪いが意を決し、
「返事が無いなら開けますよ」
と宣言して戸を引き開けると、閉じた便器の蓋の上にはリュック・サックの形をしたクマのぬいぐるみが、項垂れるように座っている。
「どなたかお客様がお忘れだったのでしょう。声は、中に通話中のスマート・フォンでも入っているんですかね」。

そう言いながらリュックの肩紐を掴んでバック・ヤードに下がり、モニタの前の椅子にクマを座らせてレジ裏から見えるよう出入り口に置くと、恐らく気にし過ぎなのだろう、クマに監視されているような視線を感じるのだった。

そんな夢を見た。