第四百二十五夜

 

求人情報を見付けて訪ねた雑居ビルの二階、衝立で仕切られた面接室らしき区画に受付の女性に案内され、
「そちらへお掛けになってお待ち下さい」
と、椅子を勧められる。

直径二メートルほどの白い円卓にモダンなオフィス・チェアが四つ置かれており、彼女が掌で示したものへ腰を下ろすと、その席の前に置かれたタブレットの画面が目に入る。
――お好きなボタンを一つだけ押してください。
との文言の下に、左から順に青、黄、赤の円いボタン、そしてその下に、緑茶、珈琲、紅茶の文字が並んでいる。

奇妙に思いながら、特に理由もなく珈琲を選んで触れると画面が一瞬暗転し、
――もう一度、お好きなボタンを一つだけ押してください。
と表示が切り替わる。ボタンの色と緑茶云々の文字は先程と変わらないが、各々のボタンの上に、今度はそれぞれ三桁の数字が添えられていた。

私の押した珈琲のボタンの上の数字は、3つのうちで最も小さい。一体何の意味があるのか訝しみながらも、もう一度同じボタンを押そうとして、
――この作業自体が既に何かの試験のようなものなのではないか
と思い当たり、指を止める。

が、試験だったとしてこんなものに何か「正解」があるとは思えない。少なくとも押せと書いてあるのだから、押さないよりは押す方が「正解」に近いはずだ。そう決心してもう一度、同じ珈琲のボタンを押すと、画面が再び暗転し、
――そのまましばらくお待ち下さい。
とだけ表示される。
一体何だったのかと顎に手を当てて首を捻っていると、
「お待たせしました」
と先程の女性が入って来て、湯気の立つ珈琲カップを差し出す。頭を下げて礼を言った後、タブレットを指差しながらこれは何かと問うと、彼女は、
「お飲み物を選んでいただいたまでです」
と涼しげに微笑み、一礼して区画から出て行った。

そんな夢を見た。

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