第三百三十夜   「立ち止まらずに御覧下さい」のアナウンスも虚しく、展示品の前には黒山の人集りが出来、列は遅々として進まないでいた。 列から離れた後方の空間に立ち、特別展示の期限ギリギリまで予定を延ばしたのは失 […]
第三百二十八夜   行きつけの床屋で散髪をしていると、 「いや、参ったよ」 と店主が話し掛けてきた。住宅街にぽつんと店を構える古い床屋で、自分が学生として上京してきた頃からもう十年以上通っている。 「前に、アパ […]
第三百二十六夜   小春日和の陽気から一転、日の暮れた街の冷たい風に肩を窄めながら、冷蔵庫の中身で何が作れるか思案しつつ帰途を歩く。 駅前と私の住むアパートのある住宅街とを区切るように流れる幹線道路の信号に引っ […]
第三百二十五夜   カップになみなみと注いだココアを片手に書棚を見回し、雑誌を手に取って指定された番号の席を目指してそろそろと歩く。 間もなく扉の空いたままの座敷席を見つけ、荷物を置いて靴を脱ぎ、背後の扉を閉め […]
第三百二十三夜   仕事の都合で二週間だけ、急に他県へ赴任することになった。従業員にインフルエンザが蔓延して仕事が回らなくなったのを、各地から人員を掻き集めて補うためだ。 僅かな期間の赴任だが、それなりの人数を […]
第三百二十一夜   仕事に一区切り付いた祝いに酒を飲み、二次会三次会へだらだらと付き合っているうちに、うっかり最終電車を逃した。 タクシィ代は財布に響くと嘆いていると、後輩の一人がJRの駅を指差しながら、 「う […]
第三百二十夜   職業柄正月に休みが取れぬので嫁と子供達とだけで嫁の実家へ帰省させたのだが、帰宅するにつけ朝起きるにつけ、家の中がぽっかりと孔の空いたように広々としていた。 書き入れ時の忙しい合間、僅かな休憩中 […]
第三百十九夜   正月気分も抜け、年度末へ向かう慌ただしい日常生活に戻ってしばらくしたある夜、いつものジャージにいつものシューズを履いてジョギングへ出掛けた。 家から最寄り駅の方へ二分も走ればそれなりに整備され […]
第三十八百夜   夜勤明け、通勤ラッシュを逆行して最寄り駅を下り、チェーン店の朝食メニュを平らげて帰途に就いた。 店内の暖気に慣れた体に吹く風に首をすくめながら、洗濯機、風呂、部屋干し、寝る、と帰宅後の段取りを […]
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