第三百五十八夜

 

就職先で非常事態宣言が終了し、友人宅へ集まって久し振りに酒盛りをすることになった。

交通の便の良いところが好ましいと誰かが言い出し、それならと名乗り出た者の最寄り駅に集まると、彼は駅前の広場から見える大きな商業ビルディングの裏のマンションを指差し、
「この騒ぎがあって、あの裏のマンションをかなり安く借りられたんだ」
と言って皆の先頭に立って歩き出す。

梅雨らしく蒸し蒸しと纏わり付くような空気に皆、早く冷たい酒をと言いながら歩き、マンションの表のビルのスーパ・マーケットで思い思いの酒とツマミを買って、いよいよ彼の新居へ入る。

まず共用玄関の入り口で青々とした観葉植物が出迎え、エレベータ・ホールの右手には大きな水槽とソファや丸テーブルの並ぶ待合室があり、高級ホテルのラウンジのようだ。

四人でエレベータに乗り込むと、皆口々に
「家賃、高いだろう」
「分不相応なところに住みやがって」
と囃す。
「いや本当に安くてね。運が良かった」
と家主が明かした家賃は、確かに相場の半値以下で、今度は皆で羨ましがる。
直ぐにエレベータが止まり、降りてみるとそこは二階で、この程度のことに階段を使うからそうやって腹が出るのだと笑いながら、家主の案内でいよいよ彼の家へ上がる。

玄関も広く、そこから居間までの廊下の幅も広い。
「本当に良い部屋だ」
と言いながら居間のテーブルの前に腰を下ろし、家主が食器類を出すのを待ちながら部屋の様子の観察や、外出自粛期間中の身の上話を始める。

人数分のグラスと氷、ツマミを盛る皿を持った家主が、
「君等、誰も手伝おうとせんのだな。だから彼女が出来んのだ」
と文句を言いながら戻ってくると、友人の一人が、
「そりゃお互い様だ。あのカーテンはなんだよ」
と、壁の短辺に掛かる小さなカーテンを指す。

見れば、紺と灰色とで地味にまとめられた室内の家具の中、そのカーテンだけがピンク色で明らかに馴染まない。
「ああ、そこは元からそのカーテンが掛かってて、わざわざ変えるのも面倒でなぁ」。

言いながらソファに腰を下ろしてグラスにビールを注ぐ家主と交代に、
「この窓の外の景色ってどうなんだ?」
と気になり、席を立ってそのカーテンの元へ向かう。
「二階だから遠くは見えんだろう」
と誰かが言うのを背中で聞きながら、ピンクの布地を引き開けると、窓の外一メートルほどのところにずらりと並んだ無表情の生首の一つと目が合って、
「うわっ」
と思わず声が出た。

どうしたどうしたと友人達が集まり、窓外を確認して笑う。
「なんだ、美容院のカット・マネキンじゃないか」
「まあ、突然見たらそりゃあ驚くさ」
「表のビルの二階が美容院で、ちょうどその窓の向かいの部屋がその店のバック・ヤードらしいんだ。内見のときには俺も驚いたよ」
と、グラス片手に生ハムを摘みながら家主が笑った。

そんな夢を見た。