第三百六十三夜

 

このところ、蒸し暑さで目が覚める日が続いている。弱く冷房を掛けたまま眠れば良いかと試してみても、それはそれでどうもいい塩梅が見つからず、寝冷えして目が覚める。結局、三十分ほどのタイマを掛けて寝、外気温で部屋が温まった頃合いに目が覚めるサイクルで妥協して、疲れの抜けきらぬまま寝惚けた頭で日中の仕事をこなしている。

今日も今日とて、まだ部屋の薄明るくもならぬうちにじめじめとした熱気に目が覚めた。

日が沈んでも、どころか明け方まで外の気温が下がらないのは、土も緑も極限まで切り詰めてアスファルトとコンクリートで都市を覆い尽くしたからなのだろう。

寝惚けた頭でそんなことを考えつつ、枕元のリモート・コントローラに手を伸ばして弱めの冷房を入れ、その隣の目覚まし時計を掴んで、仰向けに寝た顔の上へかざす。

蓄光塗料の黄緑色に光る文字と針が、四時二十八分を指している。後一時間半ほど寝られなくもないが、中途半端な時間では却って起き難い。一念発起してベッドから体を起こし、傍らのカーテンを引き開けると、窓外は漸く空が紫色を滲ませた頃合いで、振り返って見る目覚ましの蓄光塗料の僅かな光がはっきりと見て取れる。

未だ寝惚けた頭でユニット・バスの洗面台へ向かい、橙色の灯りに目を細めながら顔を洗ううち、妙なことに気が付いた。

中学校の入学祝いに買ってもらったあの目覚まし時計は、もう十年以上も経過して蓄光能力がめっきり衰えていた。大学生の頃でも、持って一時間かそこら、確か昨日は七時頃に帰宅して、部屋に陽の差さなくなってからどれほども経たぬというのに全く光っていなかったではないか。

慌てて泡を洗い落とし、タオルを片手に顔を拭きながらベッドへ戻ると、そこではカチカチと時を刻む時計が真っ暗な画面を見せていた。

そんな夢を見た。

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