第三百五十六夜

 

テレ・ワークの要請を受け、ウチの部署では責任者以外が週に一度、曜日と午前午後とを分けてばらばらに出社、それ以外は自宅での在宅勤務という具合に規則が決まった。

仕組みが整ってから初めて自分の出勤の朝、自家用車持ちは公共交通機関の利用を避けろとのお達しが出ていたため、初めて社の住所をカーナビへ入力して車を出し、かつて無いほど交通量の少ないバイパス道を気分良く走る。ごみごみした街中を一人でドライブなど趣味でないが、これだけ走りやすい環境なら多少はマシというものだ。

そろそろ幹線道路へ入るかという辺りで、古い倉庫の壁面に張り付いたファスト・フードの案内板が目に入って思い出した。

昨晩同僚から、社の周辺の飯屋は軒並み店を閉めている、開いていても持ち帰りだけだったり、行列だったりでとても不便だったと、愚痴とも忠告ともつかぬ報告を受けていた。
この時間に買ったのでは冷めてしまうが、給湯室には小さな電子レンジがある。コンビニ弁当を温めてもらうのを忘れる、或いは忙しそうな店員に変に遠慮をして冷たいまま持ち帰る社員が少なくないからだ。

もう何年も口にしていないハンバーガの味の記憶を掘り起こしながらハンドルを切って、車列の最後尾に着く。前の車が窓口から突き出たマイクに注文を告げている。右手の壁のお品書きを眺めながら車の進むのを待っていると、なんだか昼が待ち遠しくなる。

バーガとサラダと唐揚げとを頼むとスピーカのあちらから飲み物を付けてセットにするとお得だと勧められるが、飲み物は社内の珈琲サーバがあるから断ると、目の前のディスプレイに支払金額が表示される。便利な世の中になったものだ。

車列は特に詰まることなく流れ、私の番が来た。店員が紙袋を差し出しながら、
「お待たせいたしました」
と言いかけて、
「申し訳有りません、ご注文はお二人様分でしたでしょうか?」
と眉をハの字にして詫びる。
――そうか、職場の人間用にいくらかお土産でも買っておけば好かったか
と思いながら、
「いや、大丈夫、一人分です」
と答えると、
「大変失礼いたしました。助手席の方とお二人分だったのを聞き違えましたかと、勝手に思い込んでしまいまして」
と、店員は重ねて頭を下げた。

そんな夢を見た。