第七百五十四夜   工房の責任者との商談はお互いに笑顔で纏まった。こちらの提示した条件に彼は始め狐に抓まれたような顔をして、眉に唾をつけるようにしてこちらの顔色を窺っていた。 こちらの条件が破格だったというより […]
第七百五十三夜    用を足してトイレを出ると、冷たい強風が首筋から体温を奪って首が竦んだ。彼女の姿はまだそこになく、出てくる前に何か温かい飲み物でも買ってしまうべきか、彼女の出てくるのを待つべきか悩みながら、 […]
第七百三十八夜    冬至を少し過ぎて帰省した際、最寄り駅のロータリで幼馴染の家の父親にばったり出会った。大学に入るまでは私の一家、彼の一家ともうひと家族とで、一緒にキャンプや釣りに出掛けたり、互いの家にお泊り […]
第七百三十一夜    正月休みに帰省して年を越し、二日になると早くも皆暇を持て余してきた。来年が受験の甥に請われて勉強を教え、集中力の切れてきたところで一休みにしようと席を立ち、マグカップを片手に台所へ珈琲を淹 […]
第七百二十三夜    試験期間に入って部活がなくなり、帰宅した玄関が明るいのは久し振りだった。玄関ドアのノブを回してそっと引くと、予想通りと言うべきか鍵が開いている。一人のときは施錠をしろと上階にいるだろう妹へ […]
第七百十四夜   夕食前には戻るからと姉がぞんざいに、宜しくお願いしますと丁寧に義兄が言い、二人はアパートの外に停めた車に乗り込んで出掛けて行った。あとに残されたのは私と私の猫と、来年小学校に入る二人の娘だ。 […]
第七百十夜   秋の長雨がようやく上がった週末、溜まった洗濯物と布団を狭いベランダに干し、圧力鍋に今後数日分の夕飯となる予定のカレーを仕込んで家を出た。普段なら一週間分の食料の買い貯めのための買い物なのだが、今 […]
第七百八夜   電気街でPCのパーツを買ってそろそろ帰宅しようかという折、空がにわかに掻き曇って大粒の雨が落ちてきた。秋分を過ぎて久しいというのにまるで夕立だ。雨具の用意も無く、買ったばかりの荷物を濡らすわけに […]
第七百六夜   趣味のボウリングにふらりと出掛け、幸いというべきか予想通りというべきか顔見知りの一団を見付けた。彼らのゲームが一区切り付くのを、ホット・スナックを肴に軽く飲みながら待っていると、これまた顔見知り […]
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