第七百二十三夜

 

 試験期間に入って部活がなくなり、帰宅した玄関が明るいのは久し振りだった。玄関ドアのノブを回してそっと引くと、予想通りと言うべきか鍵が開いている。一人のときは施錠をしろと上階にいるだろう妹へ声を掛けながら後ろ手に鍵を締め、靴を脱いで家へ上がると、
「ごめーん、忘れてたー」
と暢気な声が返ってくる。

 階段を上って二人の相部屋へ入ると、珍しく学習机に向かっている妹の後ろで制服を着替える。飲み物を取ってくるが何か要るかと尋ねると温かい珈琲牛乳をというので淹れて持って行ってやり、こちらも期末試験へ向けた勉強を始める。

 暫く黙って勉強をしているといつの間にか部屋はすっかり暗くなっていて、もうそんな時刻かと時計を見ればまだ五時を少し回ったところだ。もうじき冬至もやってくる頃なのだとつくづく思いながら部屋の灯りを点ける。
 と、階下から、
「ご飯できたわよー」
と母の張り上げる声が聞こえる。妹が顔を上げてこちらを見、
「いや、まだ流石に晩御飯には早いよね」
と言うが全く同意見である。電灯のスイッチ近くに立っていたついでに部屋の扉を小さく開け、ちょっと早すぎるし、二人共勉強中だからキリの好いところまで待ってくれと返事をして机に戻る。

 暫くすると背後の机から、
「あれ、お母さんいつの間に帰ってきたんだろう。お姉ちゃん、気が付いた?」
と声を掛けられる。言われてみれば、戸の開閉の音も、鍵を開ける音も聞いていないように思う。上下二箇所のサムターンは、回すと結構はっきりと音を立てる。この部屋までは玄関からは階段を通って真っ直ぐだから、部屋の扉を閉めていたってその音を聞き逃すことはまず、ない。

 私の返事にそういうのは苦手だと妹が顔を顰めると、
「二人とも、早く食べちゃいなさーい」
と、再び母の声が、今度は部屋の扉の直ぐ外から響いてきた。

 そんな夢を見た。

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