第七百十四夜

 

夕食前には戻るからと姉がぞんざいに、宜しくお願いしますと丁寧に義兄が言い、二人はアパートの外に停めた車に乗り込んで出掛けて行った。あとに残されたのは私と私の猫と、来年小学校に入る二人の娘だ。
彼女はきっと義兄に似たのだろう大人しく優しい性格で、迷惑そうに狸寝入りをしている猫を色んな角度から眺めたり、恐る恐る撫でてみたりしながら過ごすので、こうして預かっても手が掛からない。
洗濯機に洗濯物を放り込み、猫の前足と握手している彼女へ昼食は何が好いかと尋ねると、なんでもと一番困る答えが返ってくる。彼女に留守番をさせて買い物に行くわけにもいかず、洗濯物を干した後、冷蔵庫の余り物と冷凍食品で適当に誤魔化して食べさせて歯を磨かせる。
その後も飽きずに猫を撫でる彼女をおやつ食べさせ大臣に任命するとその手を舐められてご満悦、暫くすると猫と共に昼寝に就いた。
傍らで映画を一本見る間に洗濯物が乾き、取り込んで畳んでいると彼女が目を覚ました。
「おはよう」
と声を掛けると、彼女はもごもごと何かを言う。子供らしい舌足らずなのと、彼女の控え目な性格故になかなか聞き取れない。できるだけ優しくゆっくりと説明してもらうとどうやら、
「おばさんが、お姉さんによろしくって言っていた」
ということがわかった。猫を膝に乗せて抱え、その前足でジェスチャしながらさらに詳細を尋ねると、「おばさん」というのは知らないおばさん、「お姉さん」は私のことらしい。その「おばさん」は私に「いつもお世話になっている」のだそうだ。
よくわからないが、どうもそういう夢を見たようだ。
「じゃあ、今度おばさんに会ったらどういたしましてって伝えてくれる?」
と頼んで猫を彼女に預けると、彼女は遠慮勝ちに頷いて猫の鼻に鼻を重ねた。
そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ