第六十三夜 深夜に轟音で目が覚める。思い返せば数秒前、閉じた目の向こうがちらりと明るくなった気もするので、きっと雷だろう。そう思うと同時に、ベランダのコンクリートを叩く雨音が聞こえてくる。 音で目覚めたのにも関わらず、そ […]
第六十二夜 沼の上に月が出ている。沼を渡る夜風は夏といっても爽やかで、岸の葦が吹かれてはそよと揺れ、また吹かれてはそよと揺れるその上を、月明りが波になって押し寄せている。 そんな景色を眼下に見ながら、味噌を付けた胡瓜をポ […]
第六十一夜 浜で友人たちと花火を見た帰り、路面電車で家路に就き、最寄りの駅で彼らと別れて一人山道を歩く。 花火の余韻の名残惜しく、木々を抜ける夜風に吹かれながらゆっくりと歩いていると不意に、 どん、どどん と大きな音が腹 […]
第六十夜 ここ数週間、スマート・フォンの電池の減りが異様に早い。そろそろ寿命かと店へ持っていって調べてもらうと、電池容量は正常で、各種の設定や電波状況次第ではそういうこともあるからと、一通りの助言で済まされた。電波の不安 […]
第五十九夜 ある山奥の神社へ用があり、朝から汽車を乗り継いで最寄りの駅に付いたときには午後一時を回っていた。バスの来るまでの暇を、待合小屋の日陰で居合わせた地元の老人達と世間話をして過ごす。ようやく着いたバスから家族連れ […]
第五十八夜 路線バスを降りると、空梅雨のお天道さまがじりじりと肌を焼く。帰りのバスの時刻を確かめようとバス停の時刻表の前に身をかがめると、川を渡って来る風が肌の熱を幾らか奪ってくれるのに気が付く。 その風に乗って、某園の […]
第五十夜 「お、そろそろだな」。 友人の声に壁掛け時計を見やると、十時半を三秒、四秒と過ぎてゆくところだ。 「本当に?」 と尋ねると、 「後三十秒で分かるさ」 と笑って返す。 最低限の家具だけが無機的に並ぶこの部屋の主曰 […]
第五十六夜 もう夜も半ばというのに相変わらず不快指数の高い空気の絡みつく中を、自転車で友人を先導しながら走る。 私を追いながら、アスファルトとコンクリートが日光を溜め込むのだ、密度の高い住宅やビルがエアコンを点け続けるか […]
第五十五夜 湯上がりの火照った肌を浴衣の生地が撫で、肌と生地との間に風が通るのが心地よく、ついつい大股で歩いて部屋へ戻ると、仲居がちょうど布団を敷き終えたところだった。 失礼しましたといって頭を下げる彼女にいい湯だったと […]
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