第四十六夜 西の空に半月の沈みかける頃になって漸く一仕事を終え、社用車を駐めたコイン・パーキングまで住宅街の路地を歩いている。昼間まではじめじめと蒸し暑かったが、日が暮れたからか、北風でも吹いたのか、いつの間にやら空気は […]
第四十五夜 事務所で机に向かいカタカタとキィ・ボードを打っていると、「こんにちはー」と語尾の間延びした大声とともに長い茶髪の女性が入ってくる。 仕事上の知り合いで、まだ若いのにこれでもかと派手な服装と化粧をしていることも […]
第四十四夜 暗い山道をハイビームで照らしながら車を走らせる。 席がお開きになってから車内で酒が抜けるのを待つうちについ眠ってしまい、日付も変わった頃合いである。今更急いで帰っても細君のお叱りは変わらなかろうから、努めて安 […]
第四十三夜 柿の木の葉が茂ってきた。面倒ではあるが毎年のこと、仕方がなく重い腰を上げ、殺虫剤を撒くことにする。 噴霧器に殺虫剤を入れ、ポリタンクを背負って木に向かう。風向きを確かめていると、雀が数羽飛んできて、何をしてい […]
第四十二夜 散歩に出たはいいものの、五月の湿った空気に強い陽光が加わって蒸し暑い。 交差点の向こうに公園らしき茂みを見付けて、どこか腰を下ろせる日陰でもないものかと探しに入ることにする。 幸い入ってすぐ、楠の木の大木の陰 […]
第四十一夜 もぐもぐもぐと口を口を動かす度に、しゃりしゃりしゃりと音がして、口中に爽やかな柑橘の香りが広がる。 ――やはり葉っぱは柑橘類に限る。 そう考えながらひとしきり口を動かし、足下の葉を三分の一ほど食べ終えたところ […]
第三十夜 窓を叩く雨音に気が付くと、キィ・ボードに手を乗せたまま舟を漕いでいた。無理な格好で頭の重量を支えたために、首の後ろの筋肉が凝って頭痛がする。心拍に合わせて目の奥から後頭部へ、重い痛みがうねるように襲う。天気が悪 […]
第三十九夜 雨上がりの早朝、雨露を湛えた稲の葉が青々と輝く隙間を縫って走る畦道を、犬に引かれて歩く。 と、犬が一鳴きして綱をひときわ強くグイと引く。 犬の視線の先を見ると、道に敷かれた砂利が盛り上がっている。いや、よくよ […]
第三十夜 安アパートの二階にある自室は五月晴れで蒸し暑く、なかなか寝付かれない。 さっぱりしたものを飲みたくなり、財布を手にサンダルをつっかけて部屋を出る。階段を下ったところにアパートの設置した自販機があるので、鍵の心配 […]
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