第六十夜

ここ数週間、スマート・フォンの電池の減りが異様に早い。そろそろ寿命かと店へ持っていって調べてもらうと、電池容量は正常で、各種の設定や電波状況次第ではそういうこともあるからと、一通りの助言で済まされた。電波の不安定なところでは消耗が激しいため、電車などの移動中や電波状況の悪い建物の中では、不要の際に機内モードに設定するとよいという。

しかし、数日それらを試してみても、電池の消耗速度に改善は見られない。

何か原因があるものと、普段開かぬようなあちらこちらの設定を弄り、使わないアプリケーションを削除して回っていると、見に覚えのないゲームがインストールされているのに気付く。主に女性が指でなぞって遊んでいるのを電車や大学で見かけるが、ルールさえよく知らぬゲームだ。

当然、削除しようとするが、何故か操作を受け付けない。ゲームを装ったウイルスか何かだろうか。生憎、こういうときにどうすればよいかわからない。検索してみても同様の症状は特に報告されていないようだし、本体のバック・アップは取っていない。また時間を作って店へ持っていかなければならないかと思うと憂鬱であるが、致し方ないと諦める。

充電器に繋いだスマート・フォンを座卓に置いたまま食事の準備をして戻ると、青白い顔をした女が、座卓に覆いかぶさるようにして、スマート・フォンの画面を指で熱心になぞっている。口からは血を流し、よく見れば胴から臓物がはみ出て、腰から下が無い。

女が気付き、虚ろな目を見開いてこちらを見る。半ば腰が抜け、壁に背を預けるようにしてどうにか尻餅を付かずに済む。折角の料理をこぼさなかったのは幸いである。

混乱し、身動きを取れずにいる私に、女は低く震え、間延びした声で、おどろかせてごめんなさいというようなことを言う。

しどろもどろになりながら何がなんだかわからぬと告げると、彼女は未練がましい声で事情を説明してくれた。

彼女は数週間前まで大学生であった。重度のゲーム中毒者で、通学中の駅のホームで歩きながらスマート・フォンのゲームをしていたところ、他の客と接触してホームに転落、スマート・フォンをかばって受け身を取れなかったために打ち所が悪く、そのまま電車に轢かれて亡くなってしまった。しかし、そのゲームのハイ・スコアを更新しないでは死んでも死に切れぬと思い、たまたまその路線を利用していた私のスマート・フォンに取り憑き、私の見ていないところで日夜スコア・アタックに精を出していたのだそうだ。

この世に残す未練も十人十色であるものだ。とにかく充電の減るのは困るからと、機種変更で使わなくなったものにそのゲームをインストールして渡してやると、彼女は血塗れの口を引きつらせて笑いながら礼を言い、目を血走らせて画面をなぞり始めた。

そんな夢を見た。