第十六夜 右手にリード、左手に糞尿処理用のあれやこれやを持って、青黒い夜道を散歩している。 体高は膝ほど、組み付いて背伸びをしても精々腰まで。等間隔に並んだ街頭に枯れ草色の毛が照らされる彼のリードを引きながら、彼のこの小 […]
第十五夜 車内アナウンスで次のバス停の名前が告げられ、降車ボタンを押すよう促されて右手を持ち上げると、先に誰かがボタンを押したようで 「次、停まります」 の声が車内に響いた。 程なく停車し、大学生くらいの五人組、仲の良さ […]
第十四夜 駅からの帰路、小さな交差点を左へ曲がり細い道に入る。街灯が少ないのに応じた分だけ、自転車の灯が強まったように思われる。 小路との三叉路を一つ、交差点を一つ過ぎ、右手に駐車場が見えたところで前籠の鞄からキーケース […]
第十三夜 みぞれの降る街を、傘を差して歩いている。十字路の横断歩道を渡り数メートル進むと道は大きく左へ折れており、曲がった先には小さな橋が架かっていた。 橋に近付くと少しづつ左右の視界が広がり、橋の五メートルほど下を水が […]
第十二夜 夕まづめ。ユスリカが羽化をしようと湧いて立つのを食らってやろうと、葦のしがらみの陰から泳ぎ出る。昨夜は上流で雨でも降ったか、水はやや濁って流れも早い。 こんな日は食事に夢中になって流される者が少なくない。すると […]
第十一夜 夜の山道を下り、冬枯れた水田に挟まれた交差点で信号に引っ掛かると、辻を四隅から照らす街灯の明るさに安堵する。山の中に慣れた目には、昼のように明るいといっても大袈裟ではない。人間というのはつくづく昼行性の動物なの […]
第十夜 星明りの冴える星空の下を歩いていると、歩道の脇に街頭に照らされて、「頭」が落ちていた。 いや、正確にいえば、落ちていたのは毛糸の手袋で、青い地の手の甲の部分に白い毛糸でHEADと文字が描かれているのが、五歩ほど先 […]
第九夜 つるりと艶のある赤茶色の鬼皮の先端、ほつれるようにささくれ立って尖った先を下にして、イガに付いていた凸凹の台の部分と鬼皮の境目に小刀の刃を差し入れると、下茹での際に染み込んだ湯が滲み出て刃の上に露の玉を作る。クイ […]
第八夜 LEDの強い灯の下、ドラムの回る低い振動音を聞きながら、茶色いビニル張りの長椅子に深く腰を掛けて漫画雑誌の頁を捲る。洗濯機の振動音がこんなに大きく聞こえるのは深夜だからか。大通りの交通量も人通りも、普段この店を利 […]
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