第十三夜

みぞれの降る街を、傘を差して歩いている。十字路の横断歩道を渡り数メートル進むと道は大きく左へ折れており、曲がった先には小さな橋が架かっていた。
橋に近付くと少しづつ左右の視界が広がり、橋の五メートルほど下を水が静かに流れているのが見える。みぞれに滑る足元に注意しながらタイル張りの橋を半ばまで歩くと、何かちらりと動くものに目を引かれ、胸までの高さの欄干から川を見下ろす。一羽の鴨が中洲の周囲を泳いでいるのが、まず目に入った。続いて茶色く枯れた中洲の上に数羽の鴨が羽を繕っているのに気が付いた。が、
――違う
という確固たる自信がある。目を引いたのはもっとぼんやりしたものだった。

クチバシを横に向け首を傾げてこちらを見やり、餌をねだって鳴き始める鴨から視線をやや上げて、上流を見る。
――なるほど。

川面からは薄く、水面から一メートルほどの高さまで湯気が立っていた。それが川の流れに引き摺られるように、横一列に並んで足元から下流へと流れ、流れるうちに周囲の大気の中へ文字通り雲散霧消してゆく。

まるで、湯が流れているようだが、もちろんそんなことはない。湯気や霧は湿度の高い空気が冷やされたときに出るのだから、気温に比べれば水温のほうが多少は高いのだろうが、人が暖かいと感じるような温度では到底なかろう。

幾度か湯気の波が下流へ消えてゆく様を見届けて、再び歩き出す。
瀝青を薄く覆い始めた雪に足元を掬われぬよう注意して歩きながら考える。湯気が出るのは湯が暖かいから、ではない。ちょっと経験すれば、或いは知識を得、それに基づいて考えればすぐに分かることだ。が、湯気という字面、音の響きも手伝ってか、温かそうだと間違った印象を受ける。
――何かに似ているな
と、頭の中を探ってみる。が、それらしいものを掴む前に「何か」の感触は霧消してしまった。

そんな夢を見た。