第十六夜

右手にリード、左手に糞尿処理用のあれやこれやを持って、青黒い夜道を散歩している。

体高は膝ほど、組み付いて背伸びをしても精々腰まで。等間隔に並んだ街頭に枯れ草色の毛が照らされる彼のリードを引きながら、彼のこの小さな体のどこにこれ程の力があるのかと感心するのが毎晩の日課である。

歩くというよりはむしろ犬に引き摺られているような有様で、ただ歩くよりも余程疲れる。彼としても散歩に連れ出してもらっているというよりは、だらしのない主人の運動不足を解消させてやるために私を家から連れ出してやっているつもりなのかもしれない。

近所の公園を囲む遊歩道へ入ると、道の左右の常緑樹の陰になり街灯の灯が遮られていっそう暗い。が、本来が視覚に頼る割合の低い動物だからか、犬の方は勢いを緩めることなく私を引っ張る。

疲れてリードを左手に持ち替えようとした瞬間、犬が大きく一鳴きして駆け出し、思わずリードを放してしまうと、彼は左手、公園側の茂みの中へ飛び込んですぐに姿を消してしまった。

後を追うにもツツジとシイの植え込みに人の踏み入る隙は無く、遊歩道から公園内へ繋がる植え込みの切れ目へと走る。良かった。公園の野球グラウンドをぐるぐると走り回っている姿が見えた。外へ飛び出して事故に遭ったり、迷子にならずに本当に良かった。ツツジの枝で怪我でもしていないかどうか、家に着いたら明るいところでよく見てやろう。

とは言え、夜中でもジョギングやウォーキングなどで公園を尋ねる人は少なくないので、怪我でもさせたら大事である。近所迷惑にならぬよう遠慮した声量で、グラウンドを駆ける姿へ名前を呼ぶ。と、左手の茂みががさりと音を立てる。不意のことに驚いて振り向くと名前を呼ばれた犬がこちらを見上げており、自慢げにワンと一鳴きする。

そんな夢を見た。

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