第八百夜

 

 打ち合わせにやってきた二人を社用車に乗せ、送り届けることになった。豪雨を伴う落雷の影響で電車が運転を見合わせて、タクシィを拾って帰るというのを聞いた社長が私に白羽の矢を立てたのだ。
 灰色に塗り込められた空からポツポツと雨粒がフロントガラスを叩く。今走っているところは小康状態だが土地の低いところは冠水が始まっており、カー・ナビゲーションの誘導を無視してコースを変更すること既に三度、取引先の二人からは「余計な世話を掛けて申し訳ない」としきりに頭を下げられ続けて居心地が悪い。
 まだ日の暮れるのには数時間もあるが空は暗く、時折青白く光っては轟音を響かせる。時折視界が乳白色に染まるほどの豪雨にも遭いながらどうにか先方の事務所近くまで来ると、
「そこの小路へ入って少しのところに、コイン・パーキングの看板があります。同じ敷地にうちの契約している枠があるのでそこへ駐めて、ちょっとうちで雨宿りでもしていって下さい」
と仰る。
 一度は辞退してみるが、スマート・フォンで天気予報を見せられ、
「まだ暫くは強い雨雲が流れ込み続けてひどい雨が続く。あちこち冠水もしているし、こんな視界の中を運転して戻るのは危ないから」
と説得されて、お言葉に甘えることにする。
 舗装路より一段高くなった駐車場へ慎重に侵入し、案内に従って車を駐める。どうやらオレンジの線で時間貸しの、白線で月極の区画がされているらしい。運転席の窓外は雨でほとんど見えず、後部カメラの画像を頼りにゆっくりと車を枠に納めると、今度はどのタイミングで車から出るかが話し合われる。せめてボンネットや天井を叩く雨粒の音の高い間は車に留まろうということになるが、これまでもノロノロと運転しながら随分と雑談を重ねてきたため話のタネに困る。
 そういえば、
「この白線の、敷地の奥の方ですけど、塀の手間に随分と隙間が空いてますよね。普通こういうところって一台分でも多く枠を確保するように区切るものかと思っていました」
と、何となく先程覚えた違和感を口にする。
「ああ、あそこはね、小さなお社が建っているんです。元々は井戸があったから、その神様を祀っているんだとか聞きましたけど、そりゃ車なんて駐められるほどしっかりと埋め戻すのなんて大変でしょうから、そういう工夫なんだと思います」。
そんな話を聞いていると雨が再び小康状態に入り、今のうちにと三人で車を出、何となくお社に小さく頭を下げてから二人の後を小走りに追った。
 そんな夢を見た。

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