第十夜

星明りの冴える星空の下を歩いていると、歩道の脇に街頭に照らされて、「頭」が落ちていた。

いや、正確にいえば、落ちていたのは毛糸の手袋で、青い地の手の甲の部分に白い毛糸でHEADと文字が描かれているのが、五歩ほど先、街頭が照らす朧気な円形の中に見て取れたのだ。

近づいてみると、親指を入れる膨らみがHの文字の左側に伸びている。どうやら右手用のものらしい。簡単に辺りを見回すが、左手が落ちている様子はない。何か細々した物を荷物から取り出したり、触ったりする必要のあるときに片手袋だけを外し、鞄やポケットに仕舞ったつもりで落として失くしてしまうのはよくあることだ。

手袋を摘み上げ、ガードレールの支柱の先にはめてやり、再び歩き出す。落とし主はちゃんと自分の頭を見つけられるだろうか。

歩きながら、自分がその手袋をはめたらと、胸の前へ左手を持ち上げて、手の甲をじっと見る。

HEAD。

どう見ても頭である。一体全体、何故HANDとしなかったのだろう。最初と最後の一文字ずつが一致しているだけに、なんとももどかしい、歯痒い、尻の坐りの悪いような気がしてたまらないまま数歩を歩む。

いや、考えてみれば、帽子に「頭」とか「額」と刺繍されているのは見たことがない。背中に背と書かれた上着も、尻に尻、脚に脚と書かれたズボンも、足と書かれた靴も、商品名の一部が小さくロゴで入っているようなものを除けば、見たことがない。手袋にわざわざHANDなどと刺繍するほうがナンセンスなのだといわれれば、それはそれで説得力があるような気もする。

また、私に学がないので知らないだけで、世界のどこかにはHEADの綴で「手」を意味する言語があるのかもしれない。無知は罪である。いやいや、その場合、先程考えた通り、手袋に「手」と書かれているのはナンセンスである。シュールな冗談か、哲学的な芸術または美術的な感覚の持ち主の、芸術作品だったのだろうか。

ガードレールの上でこちらに手を振る「頭」に振り返り、鼻から溜息を吐いて、また前を向いて歩き出す。

そんな夢を見た。